35 / 68
第35話
妙に生あたたかい風が、森全体をざわめかせる。わたしは、茂みの陰からのそのそと這い出した。
胡座をかいて煙草を咥える。紫煙が渦を巻き、それはわたしを嘲笑うように鼻先にまといつく。
熱が治まるどころか、股間は依然として臨戦態勢にある。灰が長く伸びて、爪が焦げる嫌な臭いが立ちのぼると、なおさら神経がささくれ立つ。
吸い殻をへし折り、頭をかきむしると指がべたついた。
蜘蛛の巣が、髪の毛にへばりついていた。にちゃにちゃするそれを爪でこそげ落とすのもまだるっこしく、ジーンズのファスナーに手を伸ばす。すんでのところで思いとどまった。
自分自身に猛烈に腹が立つ。窃視におよんだだけでは飽き足らず、天音の痴態をおかずに手淫で自分をなだめにかかるだなんて、浅ましいにも程がある。
一万回、自己嫌悪に陥っても追いつかない。
「くそっ、なんてザマだ……っ!」
山荘に滞在している間に、これまで行き来がなかった義弟と仲よくなれればそれに越したことはない。あわよくば、と思っていた。
それが実際には、一筋縄ではいかない義弟に好き放題に振り回されている。
肩をそびやかして歩きだした。その直後、あるものに視線が吸い寄せられた。
天音が愉悦をきわめた証しに、蟻が群がっていた。
腹立ちまぎれに踏みにじった。爪先でえぐった。頭にこびりついて離れない情景を消し去るように、スニーカーが泥まみれになっても、何度も何度も。
ともだちにシェアしよう!