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第3話
「こうき〜、こ~う~き~く~ん」
だだっ広いお屋敷で、俺が唯一、1人になれる場所。
高台の大木の上で居眠りしていると、下からアキラが声を掛ける。
俺が木から飛び降りると
「お前、顔や身体に傷付けたら大変な事になるんだから、止めてくれよ」
深い溜め息を吐いて、アキラが俺に背を向けて歩き出す。
あれから9年の月日が流れた。
俺はあの日、ドアを開けて
「赤司様の養子になる」
と宣言した。
親父は驚愕した顔をして
「何故、その話を!」
って叫んだ。
すると赤司様はニタリと笑って
「素晴らしい息子をお持ちになられて、良かったですね」
そう言うと、サラサラっと小切手を書いてテーブルに置いた。
そして俺の腰を抱いて顎を掴むと
「やはり近くで見ると尚、美しい顔をしている」
満足そうに笑って歩き出した。
親父が止めようと走り寄ると、片目に眼帯をした男がドアを開けて中へと入り、素早く俺を肩に担ぎ上げた。
「光輝!」
親父の悲鳴のような声が玄関に響き、桜子と別室に居た母親が裸足で玄関から飛び出して来た。
「光輝!嫌!光輝!」
車に乗せられると、ドアを母親が泣きながら叩く。
「出せ!」
赤司様が冷たく言うと、長髪の男が車を走らせた。
「振り向かない方が良いぞ」
と眼帯の男に言われたけど、泣いてドアを開けようとする母親を振り切るように車が走り出したのが心配で振り向くと、母親が泣きながら必死に追い掛けていた。
段々と小さくなる母親の姿に、俺は涙を流していた。
「だから振り向くなと言ったんだ」
眼帯の男に冷たく言われて、俺は慌てて涙を拭った。
そんな俺の横で、満足そうに笑う赤司様は俺の頬を指でなぞり
「子供の肌は綺麗だねぇ……。アキラ、お前もつい最近までは綺麗な肌だったのになぁ……」
下卑た笑いを浮かべるそいつに、アキラは何も答えずに運転していた。
自宅から1時間程走った山奥にお屋敷はあった。
高い塀に囲まれ、自動ドアが開くとそこには立派なお屋敷が建っていた。
赤司様は海外から輸入したお城だと、自慢げに話していたっけ。
着の身着のままで連れ出された俺は、再び眼帯の男に担がれてお屋敷へと運ばれた。
中には使用人が何人も居て、赤司様に深々とお辞儀をすると
「お帰りなさいませ」
と声を揃えて挨拶をしていた。
赤司様は使用人に
「新しい私の息子、光輝だ。やっと手に入れた」
と言うと
「光輝はアキラに専属で付かせる。意味は……分かるよな」
と言って使用人達を見下ろした。
すると使用人達は深々と頭を下げて
「かしこまりました。他のご子息様達にも、その旨をお伝え致します」
と答えた。
「毎日、チェックするからな。もし、光輝の顔や身体に少しでも傷を付けてみろ!二度と陽の目が見られると思うな!」
そう怒鳴ると、赤司様は眼帯の男に担がれている無様な格好の俺の頬を撫でてうっとりとした顔をする。
「久しぶりにこんな綺麗な子を見たよ。アキラ、光輝はお前以上に良い男になるぞ」
ご満悦の顔で言うと
「今日は疲れただろう。夕飯まで、ゆっくりと部屋で休みなさい」
そう言われた。
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