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第10話

宏の腰を抱いたまま制服のジャケットを脱がせると、宏が慌てて俺の唇から唇を離して 「光輝、だから奉仕は…」 と呟いた。 俺はその唇に人差し指を当てて 「奉仕じゃ無い。好きな奴に触れたいと思うのは…自然な事じゃ無いのか?」 そう答えた。 俺の言葉に宏は頬を染めて 「お前のそういう所、本当に狡いよな…」 と唇を尖らせた。 会話をしながら宏のネクタイを外し、制服のシャツのボタンを外す。 そっと宏の裸の胸に頬を寄せると 「お前くらいだぞ、俺なんかを求めるのは…」 って苦笑いを浮かべた。 「宏は俺が欲しいとは思わないのか?」 ふと子供じみた言葉を呟くと、宏は困った顔をして顔を益々赤くすると 「お前を求めない奴なんて…居たら会ってみたいもんだよ」 と呟いた。 人が綺麗だと言うのこ顔は…あくまでも親からのギフトだ。 そして肉体美だと言われるこの身体に至っては、俺達の身体は見せる(魅せる)為に管理されて作り上げられた偽物。 俺達にはそれぞれ、専門のトレーナーが付く。 何処を鍛えどのように立ち振る舞えば自分が最大限に活かされれるのかを、此処に連れて来られた日から叩き込まれて来た。 原石が美しい宏がダイヤモンドなら、俺達はジルコニアという所だろう。 自分が望んで手に入れたモノは何一つ無く、ただ、商品価値として磨き上げる為に作られた身体。 俺は赤司様以外では兄弟以外に関係を持った事は無い。しかし、他の奴等は大物芸能人やマスコミ関係。アキラに関しては、守秘義務で誰だかは知らないが大物政治家を相手にしているのは知っていた。 それが赤司の私服を肥やし、資金源になっている。 宏はおそらく、将来、赤司の秘書のようなものにされるのだろう。 頭が良くて聡明で思慮深い。 控え目な性格が災いして、本当は綺麗な顔立ちをしているのにそう思われないのは、毒々しく煌びやかに着飾られた俺達の中にいるからなのかもしれない。 「宏は…綺麗だよ」 汚れを知らない、真っ新な宏を汚したのは…俺だ。 前も後も使った事の無かった宏を、快楽という名の誘惑で俺がこの手で汚した。 それはきっと、一生償っても償い切れない罪。でも、欲望と嫉妬の渦巻く世界で生きていく為に、俺には宏が必要だった。 宏の存在は、先の無い真っ暗な闇の中を照らす一筋の光だった。 縋っているもの、溺れているのも俺の方だ。 きっと俺の毒牙にかからなければ、宏だけが唯一、普通の幸せってヤツを掴めたのかもしれないと思うと、いたたまれない気持ちになる。 人には…手を出して良い事と悪い事がある。 俺は、宏には手を出すべきでは無かった。 それでも…求めてしまったのは、俺の我儘で身勝手な感情。 真っ白な新雪の雪を、この汚れた身体で踏み荒らしてしまった罪は…一生消えない。 この命が燃え尽きる時、きっと俺は地獄へと堕とされるのだろうな。 ふとそう思い、思わず苦笑いが漏れた。

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