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第12話

それは突然だった。 いつも通りに食堂へ行くと、No.3の位置に座っていた葉月がNo.4の席に座っていた。 このお屋敷では、赤司様のお気に入りや 入金額の順で席が決まっている。 入り口から長方位の形のテーブルが置かれていて、上座のお誕生席が赤司様の席。 赤司様から見て右隣はNo.1のアキラ。左側が俺の席になっていて、下座の末端が宏というのは不動の位置になっていた。 それ以外は、毎月の入金額が赤司様の気分で入れ替わりが多い。 食卓に来ると、入り口で他の兄弟は席のプレートを渡されてその場所に着くのだが、此処数年はずっと葉月がその位置をキープしていた。 しかし、今日は何故か逸人がその席に座っているのだ。 俺が隣の席の葉月を見ると、葉月は気にする様子も無く 「ラッキー、光輝の隣か」 そう言って笑っていた。 そして仕事から戻った赤司様がテーブルに着くと 「食事を始める前に、話がある」 と言い出した。 みんな何を言われるのか固唾を飲んでいると 「宏の大学だが、東大を受験させるのでは無く、京大にする事に決まった」 と赤司様が笑顔で話した。 その瞬間、テーブルがざわつく。 宏の顔を見ると、宏も初めて聞いたらしく呆然としている。 「元々、高校を卒業したら、この屋敷から雪雅達の住む建物へ移動する予定だったんだ。でも、元々身体が弱い宏があの建物に移ったら倒れるかもしれないだろう?だから、良い下宿先を紹介するから、お前は暫くそちらに行きなさい」 そう言われて逸人の顔を見ると、逸人が宏へ嫌悪の視線を向けているのに気付く。 そして逸人は俺の視線に気付くと、にっこりと微笑んで俺の足に逸人の足の親指を滑らせる。 (こいつが…何かしたんだな) 顔に出ないように平静を装い、逸人が悪戯している足を引っ込めた。 「反対です!」 その瞬間、以外な人物が異論を唱えた。 それは剛志と総士だった。 普段、何に関しても無関心を貫き通して来た2人が 「俺達、宏兄に勉強を教わってたんです!宏兄が居なくなったら、誰に教われば良いんですか!」 半泣きになって抗議する2人に、宏は顔色も変えずに 「よせ!俺の代わりなら、光輝だってアキラだって出来る」 そう呟いた。 この屋敷で、宏の代わりが出来るのは俺とアキラくらいだろう。 他の人達は、成績はいわゆる並。 あえて可もなく不可もなくの成績を貫いたんだと思う。 すると赤司様は笑顔を変えず 「アキラ、お前が2人の面倒を見てあげなさい」 と言うと 「以上だ。では、食事を始めましょう」 そう言って夕食が始まった。 俺は嫌な胸騒ぎがした。 逸人の宏を見ていた視線。 そして俺への悪戯。 必死に冷静を装って食事を終えると、逸人が近付いて来た。 俺の腕を掴み、物陰へと誘い込む。 「逸人!まずいから」 周りを見回して呟く俺に、逸人は小さく微笑んで 「ねぇ…、光輝。俺の事、好き?」 有無を言わさない視線。 背中に嫌な汗が伝う。 「逸人…お前」 そう口を開いた瞬間 「そこで何をしている?」 と言いながら、アキラが現れた。 俺の腕を掴み引き寄せると 「光輝に近付いて良いのは、俺と赤司様だけだ」 睨み付けて言うと 「残念だけど、そこに今夜から俺が加わるんだな~。ねぇ、光輝。それって、どういう事か分かるよね」 逸人を知らない人が見たら、思わずうっとりとしてしまうであろう魅惑の笑みを浮かべて逸人はそう言うと 「ま、今夜分かるから。あとでね、光輝」 と言って俺達に背を向けて部屋へと歩き出した。 俺とアキラは顔を見合わせ、部屋へと戻った。

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