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第22話
翌日、赤司の相手をしなくて済んだお陰で、身体を久しぶりにゆっくりと休められて楽だった。
時計を見て、朝食の時間をすっぽかしたのに気付き苦笑いを浮かべる。
この家に来てから、規則正しい生活を強いられているので、朝寝坊は家族と過ごしたあの頃以来だ。
身体を起こし、身支度をして1階に下りた。
アキラか葉月に車を出してもらおうと探していると、逸人の叫び声が聞こえた。
「嫌だ!あんな奴に飼い殺されるなら、死んだ方がマシだ!」
どうやら、昨日の逸人の行動に対する処罰が決まったようだった。
恐らく…逸人の客の中で、逸人にご執心の栗原様に払い下げられるのだろう。
この屋敷で暮らす俺達は、赤司様が飽きたり興味を失うと、客の誰かに払い下げられるとはアキラから聞いていた。
しかし、今までそんな奴は誰も居なかった。
赤司の考えは「一時の大金よりも、絞れる間は絞り取る」だから、利用価値のあるうちは手元に置いておくだろうと思っていた。
俺はともかく、他の奴等にとって此処は居心地が良いだろうと思う。
赤司は俺以外、他の奴らを気紛れに抱く程度で後は贅沢三昧させている。
パーティーに連れて行かれて夜の相手が見つかるか、予め予約が入って居なければ…基本的には自由にされている。
そう、俺以外は…。
アキラの客の中には政財界の重鎮がいるらしく、そういう方々はこの屋敷にある専用の部屋でもてなされる。
俺はこの屋敷に人が出入りする日は、部屋から出る事を禁じられる。
外から鍵を掛けられ、屋敷内さえも出歩けない。
だから俺達の部屋には、水回りが用意されていたりする。
赤司は俺を決して人目に着かないように隠し、寵愛し続けている。
そんな生活を6年もしていると、別に苦痛でも何でも無くなるのが不思議なものだ。
同じような生活を、逸人も強いられるとなると…反発したくもなるのだろう。
しかも、栗原様の性癖が最悪だと逸人がいつだったかボヤいていた。
見た目は優しそうな紳士だが、SMの趣味が多少あるらしく、逸人はそれが堪らなく嫌だと話していた。
今は赤司の持ち物だから多少加減されているだろうが…、自分のモノとなったらどうなるか分からない恐怖があるんだろう。
俺は騒がしい部屋に踵を返し、大学まで誰に送って貰うかを悩んでいた。
その時、後ろから誰かに抱き着かれて振り向くと、逸人が泣きながら俺に縋り付いている。
「助けて、光輝…。俺、栗原様の所に行かされるなんて嫌だ!」
そう叫んだ。
「逸人!いい加減、諦めろ!」
アキラがそう言って逸人の腕を掴み掛けると
「嫌だ!お願い……、光輝。助けて…」
震える逸人の頭を撫でて
「逸人、分かった。俺からもお願いして上げるから」
そう言って優しく微笑む。
すると逸人はパァ!と明るく笑い
「本当に?光輝、赤司様に頼んでくれるの?」
と叫んだ。
「あぁ。だから、もう泣かなくて良いよ」
そっと頬にキスをして上げると、逸人は俺に抱き着いて
「光輝!大好きだよ」
と言って俺の胸に顔を埋めた。
馬鹿なヤツ…。
俺を襲っただけでも怒り心頭なのに、俺がお前を庇ったりしたら、余計、火に油を注ぐのに……。
覚めた目で逸人を見下ろし、俺は優しい笑顔を浮かべる。
「逸人…悪いけど、俺はこれから大学に行かなくちゃならないから」
そう言って逸人の身体を離し、アキラに微笑む。
するとアキラは溜め息を吐くと、ポケットから車のキーを取り出した。
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