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第25話

その日、大学から帰宅すると、俺は逸人の部屋に顔を出した。 相当落ち込んでいて、あの傲慢で我儘だけど、人を惹きつける毒々しい美しさが形を潜めてしまっていた。 「逸人、大丈夫か?」 そっと肩を抱くと、縋るような目で俺を見上げた。 そして 「光輝、お願いがあるんだ」 と言い出すと 「最後になるかもしれないから、僕を恋人のように抱いて…」 懇願されて、俺はそっと頬に手を当てて 「良いのか?そんな事したら…」 そう呟いた俺の唇に、逸人が唇を重ねた。 キスをしながら俺のシャツのボタンを外し、シャツを脱がせて身体に触れてくる。 押し倒されて、唇から頬、耳元や耳を舐められた時 「これは復讐なんでしょう?」 ぽつりと逸人が呟いた。 「え?」 驚いて逸人の顔を見ると 「ごめん。僕は…本気で光輝が好きだった。だから光輝を僕だけの光輝にしたかった」 その瞳には涙が浮かぶ。 (ダメだ…ここで絆されたら、全てが終わる) 俺がそう心の中で叫ぶと 「お願い…、宏を抱いたように愛して。身代わりでも良いから…」 その言葉にカッとなった。 (ふざけるな!誰も…宏の身代わりになんかなれないんだよ!) 逸人のその言葉で、俺の中の最後の善意が消えた。 俺の身体を這う唇が悍しい。 お前はそうやって悲劇のヒーローを演じて、許してもらおうと思っているんだろうけど…。全て遅いんだよ。 俺は逸人の肩を掴み 「やっぱりダメだよ、逸人。俺は赤司様を裏切るなんて出来ないよ」 そう言って小さく微笑むと、逸人の身体を引き剥がした。 「光輝!愛してくれてるんだよね?」 必死に縋り付く逸人に、俺はシャツを羽織りながら 「悪けど…逸人を愛おしいと思った事、一度も無い」 そう吐き捨てた。 すると逸人は目を見開いて 「じゃあ、愛してる…って嘘だったの?」 と呟いた。 「はぁ?ベッドの中のピロートークなど、嘘に決まっているだろう?」 冷めた言葉で呟いた。 逸人はボロボロと涙を流し、俺の背中にしがみついた。 「嘘だ!僕は…ずっと光輝だけだった。初めて会った時から、光輝に惹かれてた、誰よりも光輝を愛してるんだ。だから、光輝が特別扱いしている宏が憎かった。宏さえいなくなれば、光輝は僕に振り向いてくれるって思ってた」 身体を震わせて背中にしがみついて泣いている逸人の手を、無理やり引き剥がして 「俺達は…赤司様のモノなんだ。例え血が繋がっていなくても…、自由に恋愛なんて出来る訳ないだろう?」 そう言って、逸人に背を向けて部屋を出ようする。 その時、泣き崩れる逸人の唇から 「赤司様が居るからいけないんだ…。あの人が僕から光輝を奪うんだ」 そうブツブツと呟いていた。 俺はそんな逸人を一瞥すると、そっと部屋を後にした。

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