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第26話

その日の夜、赤司が帰宅した音が聞こえて俺が迎えに行こうと階段を降りていると、逸人が包丁を持って赤司を狙っているのが見えた。 その目はもう常軌を逸していて、そこまで追い詰めてしまった事に罪悪感が湧く。 でも俺は罪悪感を振り払う様に首を振って、ゆっくりと逸人に気付かれないように距離を詰めていたが、逸人を止める前に赤司に狙いを定めて走り寄るのが見えた。 俺は慌てて赤司の背後から包丁を突き刺そうとした逸人の前に滑り込む。 まだだ! 俺がこの手で地獄に突き落とすまで、死なれては困る! 俺はそれだけを考えて、逸人の包丁を真正面から受け止めた。 腹部に刃物が差し込まれる衝撃が起こり、激痛が襲う。 「光輝!」 その様子を偶然、食堂へ向かっていたアキラが見ていたらしい。 アキラの声が耳に届いた。 赤司が振り向いて、驚いたように目を見開いている。 逸人は腹に包丁が刺さった俺を見て、何が起こってるのかわからないという顔をして呆然としていた。 俺の着ていたシャツが血で染まり出し、苦痛で膝を着くと、包丁を抜き取ろうとした逸人に 「触るな!」 と、雪雅が叫んで俺を抱き抱えた。 「光輝!どうした?何があったんだ?」 慌てて叫ぶ赤司の声に 「良かった…ご無事で…」 と俺は微笑み、意識を失った。 まだだ。 まだ、お前を楽になんかさせてやらない。 お前は俺が、この手で地獄へ叩き落としてやるんだ。 そう心の中で唱えながら、俺は深い暗闇に落ちて行く。 ふと、死ぬのかもしれない。 そう思った。 痛みが和らぎ、苦しみも憎しみも悲しみも…全てを感じなくなった。 (俺……死ぬのか?) 暗闇の中でぼんやりと考える。 例え死んだとしても、宏の傍には行けないかもしれない…と思っていると、突然黒い何かが俺の手を引いて歩き出した。 「え?」 驚いていると、 『光輝…まだ死んじゃダメだ』 それは、一度だって忘れた事の無い宏の声だった。 「宏?宏なのか?」 声を掛けると、突然、足元が崩れ落ちた。 真っ逆さまに落ちて行く時、黒い塊が宏の姿になって俺を見ていた。 「宏!」 叫んだ俺に 『光輝…愛してるよ』 と微笑んでいた。 必死に手を伸ばしても、俺の身体はどんどんと落ちて行く。 物凄い衝撃が襲い、腹部に激痛が走った。 目を開けるとそこは、病室だった。 「光輝!目を覚ましたのか!」 アキラの声に顔を動かし、ホッとした顔のアキラに頷いた。 個室らしく、俺はゆっくりと天井を見つめる。 又…生き地獄へ戻ったのか…。 口元を覆う呼吸器のカバーが邪魔だったが、動かす元気もなかった。 「お前…死の縁を彷徨ってたんだぞ…」 アキラが涙ぐんで言うと、俺の手を握り締めて 「生きてくれて、ありがとう」 って呟いた。

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