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第28話

病院生活は快適で、何より赤司の相手をしなくて良いのが幸せだった。 赤司は毎日、俺のお見舞いに来てはいたが、アキラが俺に付きっきりになっているのもあって、仕事が忙しいらしい。 いつもバタバタ現れて、残念そうに顔だけ見て帰って行く。 俺はそれ位で充分だったりしているので、本当に快適だった。 看護師さんは優しいし、医者もみな優しい。 ただ…小倉刑事の定期訪問には辟易するが…。 あの屋敷に戻ったら、俺との接点がガクンと減るので焦っているのだと思う。 俺を刺したと思われる逸人は行方不明。 事件にせず、事故で処理なのが気に入らないらしいが…俺から口を割るつもりもない。 そんな時だった。 いつもの時間にアキラが来ないので、どうしたのかと気になっていると、何やら揉めながらアキラが入って来た。 ドアを閉めたが、何故かもう1人入って来る。 見知らぬ顔に、眉を寄せてそいつを見ると 「お前か…、アキラが付きっきりで看病してる弟というのは…」 そいつは不躾に俺を品定めするように舐め回すような視線で見つめ 「へぇ…。アキラとは違うけど、お前も綺麗な顔をしているな」 そう言って俺の顎を掴んでマジマジと見つめた。 「赤司の姓を名乗ってるという事は、お前も娼夫なんだろう?」 蔑んだ視線で俺を見下ろす。 「戸張様、お辞め下さい。彼は売物ではありませんので!」 慌てて俺の顎からそいつの手を掴んで離したアキラの言葉に、俺は心の中で小さくほくそ笑む。 (カモが向こうから飛んで来るとはな…) 俺はそいつに小さく頬笑み 「アキラのお得意様ですが?すみません。俺はこの通り、怪我をして看病してもらってるので…」 そう言って、わざとシャツを開いて見せつけるように腹部に包帯が巻かれた身体を晒す。 『ゴクリ』 と喉が鳴ったのを確認してから 「今、動けない身体ですので…アキラが居ないとどうにもならないのです。もし…私が気になるのでしたら…そうですね。私が完治したら、パーティーにご招待頂けませんか?」 そう笑顔で彼に語り掛ける。 「パーティー?」 「えぇ…。私は自宅から出る事を赤司様に禁じられております。でも、私の名前をご指名頂ければ…外出も可能になるかと」 俺はそう語り掛けると、誘うように手を伸ばす。 「すみません。私は今、此処から動けませんので、こちらまで来ていただけませんか?」 甘く吐息じりに囁く。 そう…蜘蛛の糸を垂らし、獲物を誘い込む。 まるで催眠術にでもかかったように、俺のそばへ一歩、また一歩とそいつが歩み寄る。 俺はそいつのスーツのネクタイを引っ張り、唇を重ねた。 すると向こうも答えるように、舌を差し込んで来る。 後は赤子の手を捻るより簡単だ。 甘い口付けを交わし 「屋敷に戻るまで…此処に通って下さっても良いんですよ。ただ…怪我が治るまでは、キスしかしてあげられませんけど…」 そっと耳元で囁く。 アキラが呆れた顔をしていたのが分かったが、恐らく偶然出会ったのだろうけど、此処に連れ込んだのはわざとだろう。 そいつは目を血走らせ、俺の頬に触れる。 「身体を動かせるようになるのはいつだ?」 アキラに向かって尋ねると、アキラは困ったように肩を窄めて 「あと1ヶ月は掛かりますね。何せ、刺し傷ですからね」 と答えた。 戸張は舌打ちすると 「1ヶ月後、もう一度此処に来る。その時、容体を見てパーティーへ招待しよう」 そう言って部屋を後にした。 戸張が出て行ったのを確認すると 「光輝…。お前、まだ安静の身なんだぞ」 呆れた声で呟いた。

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