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第31話

ノックの主はアキラだったらしく、入れ違いに入って来ると、眉をしかめて 「光輝……あまり無理するな」 アキラに言われて、俺は小さく微笑み 「無理?あの高慢な鼻をへし折るのを想像したら、こんな程度へでも無いね……」 そう言って、洗面所で口をゆすぐ。 「こんな傷、さっさと治して退院しないと…」 呟く俺に、アキラは俺の腕を掴んでベッドに押し込むと 「馬鹿野郎!後数センチズレてたら、死んでたんだぞ!いいから大人しく寝てろ!」 と、珍しく怒鳴って来た。 俺はアキラに小さく微笑み 「怪我人だと思うなら、もう少し優しく扱えよ。痛てぇな」 と呟くと、アキラは俺の顎を掴み 「死んだら復讐も何もかも、全部パーだぞ」 そう呟いた。 そしてゆっくり唇が重なり、俺の下半身にアキラの手が伸びる。 「男が欲しいなら、いくらでも相手してやる。だから、今は大人しくしてろ!」 唇が触れるか触れないかの位置で囁かれ、再び唇が重なる。 俺の身体を知り尽くしたアキラの手でイカされ 「慌てなくても、あの男なら簡単に呼び出せる」 アキラはそう言って俺の頭を撫でた。 「お前は、昔から直ぐに1人で突っ走る!少しは俺を頼れ」 そう言われて抱き締められても、それは俺の求める腕では無い。 (宏……お前の腕が恋しいと、そう言ったらお前は笑うかな?) アキラの腕の中で目を閉じた。 復讐でしか、今、自分が生きている意味を持てなくなった。 時々思うのは……復讐が全て終わった時、俺には何が残るのだろうか? こんな穢れた身体で、元の世界には戻れない。 今、与えられている穏やかな時間を、窮屈だと感じるようになってしまった俺に明るい未来はあるのだろうか? 段々と重くなる瞼を閉じ、俺は眠りの中へと誘われて行った。

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