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第6話
ヒート期間が終了して、1週間ぶりに学校へ登校した。
学校の人達は、僕と恭弥が一緒に休んでいる事がどういう事なのかを分かっているので、なんとなく気まずい。
でも、相楽家に歯向かえばこの土地でいきていけないと知っているから、誰もが皆、知らない顔をしている。
結局、僕もΩでありながらも無事なのは、相楽家という後ろ盾に守られているからなんだと思い知らされる。
あの日、僕を助けてくれた『日浦太陽』という人物とには結局、お礼が言えないままになっている。
1年ではあるんだろうけど…あれから1週間も経過して、お礼を言いに行くのも今更感があって迷惑かもしれないと考えていた。
そんな時、移動教室で渡り廊下を歩いていると
「太陽〜、こっちこっち!」
「お〜!助かる!」
と話す声が聞こえた。
(太陽って…)
思わず渡り廊下から下を見下ろすと、体育着を着た一年生が走って行くのが見えた。
スラリと伸びた手足と、まだ少年ぽさが残る幼い顔をした爽やかな人物が声を掛けたであろう人に走り寄って笑っている。
その笑顔は、まるで陽だまりのように明るくて温かい優しい笑顔だった。
思わず足を止めてその光景を見ていると、後頭部を軽く叩かれた。
見上げると恭弥が隣に並び
「何か珍しい物でもあったか?」
と、僕を見下ろす。
165㎝の僕より、頭一つ大きい恭弥は僕の目線の先を見た。
「あぁ…外部入学生か」
ぽつりち呟き、僕の背中を押して歩き出す。
「外部入学生?」
思わず聞き返すと
「兄弟校で、1年間だけ生徒を交換したらしい。確か名前は…日浦太陽とか言ったかな?」
人に興味の無い恭弥が、珍しく詳しく知っているので驚いていると
「βなのに、かなり優秀で異例だって話を聞いたんだよ」
並んで歩き、移動教室の「科学実験室」のドアを恭弥が開けた。
(βなんだ…)
何故かがっかりしている自分に驚き、首を振って実験室へと足を踏み入れた。
昔…祖母から僕達Ωには「運命の番」がいると聞いた。
生まれた時から、恭弥が番と決められている僕にとっては、そんな話はどうでも良いと思っていたけど…。
恋愛くらいは人並みにしてみたかったと…、そんな風に思っていた。
僕の中で「日浦太陽」という人間は、ヒートを起こしたきっかけにもなったから、もしかしたら運命の番なんじゃないだろうか?と勝手に思っていたんだ。
…まぁ、向こうにも選ぶ権利はあるだろうけど。
そんな事を思っていると、偶然というものは起こるものだのだろう。
この日は恭弥が生徒会の用事で昼休みから席を外していたので、僕は屋上で静かにお昼を食べていた。
教室の狭い空間が苦手で、僕は屋上に来るとホッと一息着いた。
するとドアがゆっくりと開き
「あれ?」
って僕の顔を見て驚いた顔をした人物に、僕は思わず固まった。
「日浦…太陽…」
思わず呟いてしまい、慌てて口を塞ぐと
「あぁ…、やっぱり。あの時の人だったんですね」
彼はそう言ってふわりと微笑んだ。
彼の笑顔は、僕の胸の奥底をギュッと掴んだみたいに苦しくさせる。
「ん?」
彼は不思議そうな顔をすると、クンクンと匂いを嗅いで僕のそばに来ると
「もしかして先輩…Ωですか?」
そう言われた。
(どうして?ヒート期間は終わったのに…)
怯えて後退りすると
「怯えないで大丈夫ですよ」
そう言って、彼はポケットから薬を取り出して僕に手渡した。
「これ、かなり強い抑制剤なんで、今、飲んでおけば30分後には落ち着きます」
って言ったのだ。
「え?きみ、βなんだよね?」
驚いて聞くと
「あぁ…。俺の兄貴の番がΩなんですよ。それで、俺に偶然Ωに出会ってヒート起こしてたら渡せって持たされてて」
彼はそう言うと、再びふわりと優しい笑顔を浮かべる。
どうしてなんだろう?
まだ出会って2回目なのに、こんなにも心が惹かれてしまう。
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