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第9話

「月夜先輩」 廊下を歩いていると、声を掛けられて振り返ると日浦太陽が、その名の通りの太陽のような明るい笑顔を浮かべて走り寄って来た。 「移動教室ですか?」 笑顔で言われて、僕は周りをキョロキョロと確認してから日浦太陽の腕を掴んで手近な誰もいない教室へ入る。 「僕に声なんか掛けたら、きみ、此処で学園生活送れなくなるよ!」 小声で訴えると 「どうしでですか?」 って、キョトンとした顔で僕を見ている。 「この地域では、相楽家に逆らったら生きていけない。僕は相楽恭弥の番なんだから…」 自分で言って、心の中にずっしりと重い鉛のような暗い感情が胸の中を覆う。 「じゃあ、何処でなら良いんですか?」 あっけらかんと話す日浦太陽に、僕はもう呆れて苦笑いしてしまう。 「きみは…」 そう呟き掛けた僕の唇に日浦太陽は人差し指を当てると 「太陽です。俺の名前、ちゃんと覚えて下さい」 そう言って、僕の肩を抱いて顔を近付けて来る。 ダメだと分かっているのに…、抗えない何かに引き寄せられるように唇を重ねる。 日浦太陽とキスをするのは…二度目だ。 ぼんやりと考えていると 「二度目ですね、先輩とのキス」 って、日浦太陽が抱き締めて耳元で囁いた。 その甘い声に、又、身体がドクリと熱くなる。 何故、彼なんだろう? こんなにも身体が…心が…近付けば近付く程、日浦太陽を求めてしまう。 そう思って見つめていると、日浦太陽がポケットから注射器を出して僕の腕に注射を打った。 それは携帯用の、かなり強い抑制剤だと思う。 こんな高い抑制剤を、何故、彼は持ち歩いているんだろう? そう考えて、脳裏に石井医師(せんせい)の顔が浮かんだ。 「抑制剤です。分かるでしょう?あなたは俺に触れられると、いつでも何処でもヒートを起こしてしまう。それは俺とあなたが運命の番だからです」 そう言われて、僕は目を見開いて日浦太陽を見つめた。 「何を…言って……」 戸惑う僕の唇に人差し指を再び当てた時、廊下で誰かが走っている音が聞こえた。 おそらく恭弥だろう。 僕の姿が見えなくて、探しているんだと思う。 「又、お昼休みに会いましょう」 日浦太陽はそう言うと、教室の窓を開けてヒラリと外へ飛び出して行った。 慌てて窓を閉めて、僕は近くの椅子に腰掛けた。 すると教室のドアが開き、取り乱した顔の恭弥が現れた。 「恭弥…」 ぽつりと呟くと 「どうしたんだ?急にいなくなるから…」 そう言って僕の身体を抱き締めた。 「ごめん。急に…身体が熱くなって…」 おそらく、此処を見つけたのも僕が発した匂いで見つけたのだろう。 「何があったんだ?」 そう言われて、恭弥が僕の頬を両手で覆って上に向かせる。 「分からない。ごめんね、最近、身体が不安定で…」 必死に、此処に日浦太陽が居たことを悟られないように思考を巡らす。 その時、恭弥の呼吸が荒くなっているのに気が付く。 そうか…。抑制剤を打ったけど、効き目が出るにしても、この教室にはまだ匂いが充満している。 慌てて窓を開けようとする手を掴まれて、制服のシャツのボタンを外される。 「恭弥!此処じゃ、ダメ」 必死に手を離そうとすると 「お前が無防備に、こんな匂いを撒き散らすから…」 そう言って僕の頸に噛み付いた。 最近、恭弥の求め方も異常になっているような気がする。 そんな事を考えていると、カチャカチャと僕のベルトを外す音が響いた。 「恭弥、此処でしたら…廊下の前を通った人まで誘発されちゃううから!」 必死に抵抗すると、恭弥は僕の身体を抱き上げて 「誰も来ない場所なら良いんだな」 そう言うと、この場所から一番近い柔剣道室に連れ込まれた。 学校のマスターキーを持っている恭弥は、施錠されている柔剣道室の鍵を開けて中に入ると、僕を下ろして 「全部脱げ」 と命令して来た。 そう言われたら、僕には従うしか選択肢は無い。 ネクタイを外して制服の上着を脱ぐと、腕を掴まれて恭弥に強引にキスをされる。 キスをされながらボタンを外していると、焦ったいのか無理矢理僕のシャツを左右に引き裂いて胸元にむしゃぶりつく。 「あぁ!」 激しく吸われて、そのままズボンを下着ごと脱がされた。 噛み付くように身体を愛撫され、僕の肌に紅い印が刻まれて行く。

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