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第16話

あの日以来、恭弥が僕を抱く事は無くなった。 学校ではいつも通り一緒に居てくれるけど、昼休みは生徒会の用事があると言って消えてしまう。 僕は屋上でお昼を取るのが日課になった。 「あ!居た」 恭弥の代わりに、いつの間にか僕と当たり前のように日浦太陽がご飯を食べるようになり、日浦太陽という人となりを少しずつ分かって来た。 明るくて屈託の無い裏表の無いタイプで、今まで僕が出会った人達とは全然違う人種だった。 僕や恭弥が生きて来た世界は、足の引っ張り合いが当たり前だった。 相楽の家の恩恵にあやかりたい人や、鵜森の家の財力を狙う人。 媚び諂い、嘘を平気で吐けるような…決して心を許せない人たちの中で僕と恭弥は生きて来た。 だから僕と恭弥の間では、嘘偽りだけは止めようと支え合って生きて来たのを…僕はいつの間にか忘れてしまっていた。 相楽家という、巨大で陰湿なしきたりばかりの中で、恭弥はずっと次期当主として生きて来た。 あいつが無表情になったのは…いつからだっただろう。 ぼんやりと考えながらお弁当を食べていると 「聞いてます?月夜先輩」 日浦太陽がそう言って、僕の顔を覗き込んできた。 「え?ごめん。何?」 慌てて笑顔を作ると 「最近、元気ないみたいですけど…どうしたんですか?」 日浦太陽の…、陰りのない真っ直ぐな瞳が僕を見つめる。 「…きみは、どうして僕なの?」 お弁当を見つめて呟くと 「太陽!」 と、日浦太陽が僕に顔を近付けて呟く。 「え?」 「きみって、他人行儀じゃないですか?俺達、恋人同士なんだし」 って、日浦太陽が笑顔で言い出した。 「え?」 驚いて、思わずお弁当を落としそうになった。 「危ない!もう、何してるんですか」 日浦太陽はそう言うと、お弁当をキャッチして僕の手に戻すと、僕の身体を抱き締めた。 ふわりと、日浦太陽のお日様の香りが鼻腔を掠める。 あんなに大好きな香りだったのに、今は何も感じない。 「もう、エッチもしたんだし…。運命の番なんだから、僕と月夜先輩は恋人です」 って微笑んだ。 「日浦は…僕が運命の番だから好きなの?」 ぽつりと聞くと 「何言ってるんですか!何度も言ってるけど、俺は初めて会った時に一目惚れしたんです。こんなに俺を夢中にさせる人なんて、月夜先輩しかいないんですよ」 そう言うと、僕の唇にキスをしようと顔を近付けて来た。 僕は反射的に日浦太陽の唇に手を当てて、顔を逸らした。 「ごめん。今は、そんな気分じゃない」 俯いた僕に 「月夜先輩、相楽先輩と何かあったんですか?」 ぽつりと言われて、僕は驚いて日浦太陽の顔を見上げた。 「やっぱり…」 日浦太陽はそう言うと、深い溜息を吐いた。 「あなたは優し過ぎるんですよ。初めて会った日だって、相楽先輩を1人にしたくないって、俺達と一緒に来なかったし」 そう言われて、僕は疑問の視線を投げた。 「え?覚えて無いんですか?」 呆れた顔をする日浦太陽に 「前にも、俺はあなたと随分前に会った事があると話しましたよね?」 そう言われて僕が頷くと 「あれは…今から10年前だったかな?俺は那月と兄貴に連れられて、鵜森の家を訪ねたんだ。確か…那月の母親の葬儀だって言ってたな」 と、ぽつりぽつりと思い出したように話し始めた。

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