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第18話

「月夜?」 驚いた顔をする父親と那月おじさん。 僕は恭弥の手を取って 「恭弥が一緒じゃなきゃ、僕は行かない」 そう答えた。 すると那月おじさんは、僕の目線の高さにしゃがみ 「何で恭弥君と一緒が良いの?」 と、優しく問いかけて来た。 「約束したんだ。恭弥と僕は番で、ずっと一緒に居るって」 そう答えた僕に、那月おじさんが優しく頭を撫でて 「そうなんだ」 とだけ答えると、目がクリクリとした可愛らしい少年が恭弥を見て 「彼の運命の番はボクだ!きみは違うだろ!彼はボクと一緒に来た方が幸せになれるんだ!」 そう言い放った。 「きみは運命の番じゃないだろう?そんなやつに彼を幸せになんか出来ない!」 僕達より年下なのに大人びた口調の少年に、恭弥は泣きながら 「うるさい!うるさい!うるさい!!」 と叫び、僕を抱き締めた。 今思えば……この時から恭弥は少しずつ、壊れていたのかもしれない。 ボクは恭弥の背中をそっと撫でて 「もし…本当にきみが運命の番なら…、僕たちがきちんとΩとαだと確定されてから迎えに来て」 その場しのぎなのはわかっていたけど、そう答えたのを思い出した。 「あの時の少年が…日浦太陽、きみなの?」 驚いて日浦太陽の顔を見ると、彼は紛れも無いαのオーラを放ち微笑んだ。 「約束通り、俺はαと確定されたから迎えに来たんだよ」 僕に差し出す手は、あの日より大きい。 「もう、充分だろう?充分、犠牲になってきた筈だよ。これからは、俺達としがらみのない世界で一緒に生きて行こうよ」 明るい、一片の陰りも無い日浦太陽の笑顔が眩しかった。 頷いてその手を掴めば、僕は夢見た自由で広い世界に羽ばたけるのかもしれない。 それでも…この手を取れない自分に戸惑う。 あんなに大嫌いだった筈なのに…。 最後に僕に触れた恭弥の姿が頭から離れない。 戸惑っている僕に 「相楽会長、新しい相手を見つけたみたいですよ」 と、日浦太陽が呟いた。 「え?」 驚いて日浦太陽の顔を見ると 「だから月夜先輩から離れたんじゃないんですか?」 きょとんとした顔で呟いた。 (恭弥に…新しい相手) 寝耳に水だった。 恭弥が僕以外の誰かを選ぶなんて、考えたことが無かった。 「それ…本当?」 「疑うなら、相楽会長に直接確認したらどうですか?」 動揺する僕に、日浦太陽はそう答えた。 僕はこの日、相楽の家で暮らすようになってから初めて、恭弥の帰宅を本邸の前で待っていた。 何も知らない恭弥が帰宅して来て、僕の顔を見て驚いた顔をすると 「月夜…」 って呟いた。 そしていつもの無表情になると 「珍しいな、どうした?」 そう言って僕の横を通り過ぎようとした。 「待って!恭弥を待ってたんだ」 急いで恭弥の腕を掴むと、恭弥は冷めた目で僕を見て 「俺に?今更なんの用だ?用事があるなら、普段、一緒に居る時に聞けば良いだろう?」 そう言って僕から視線を逸らす。 「他の人と付き合ってるって…本当?」 ドラマの女々しい女みたいな言葉を吐いている自分に、思わず苦笑いしてしう。 恭弥は視線をそらしたまま 「お前の運命の番にでも聞いたのか?」 と冷めた声で言うと 「喜べ。お前をもうじき、自由にしてやれる」 そう言って僕の顔をゆっくりと見た。 その瞳は一瞬、悲しそうに揺れていた。 「もう、くだらないしきたりは俺の代で終わらせる。月夜、お前はもう自由だ」 そう言うと、恭弥は僕の頬に触れて優しく微笑んだ。

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