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第20話
恭弥の言う通り、僕はその週の週末には自宅へ帰宅する事になった。
荷物は僕の衣類と制服。
そして学校の教材だけだった。
思えば全て、相楽の家で揃えた物ばかりだった。
学校では、恭弥は普通に僕と一緒に行動して、今まで通りに振る舞ってくれている。
ただ違うのは…、休み時間や昼休みに恭弥の隣に同じ生徒会の副会長をしている桜宮果穂さんが並んでいる事。
どうやら、恭弥と桜宮さんは付き合っているらしい。
桜宮家といえば、隣町の有名な資産家の家。
代々、町長をやっている隣町の権力者だ。
以前から、桜宮さんが恭弥を好きだったのは知っていた。
生徒会副会長になったのも、恭弥に近付く為だと噂で耳にしていたから。
彼女もαで、美男美女のα同士のお似合いのカップルだった。
僕と恭弥の関係を知っている人達は驚いていたが、その代わりに僕の隣には日浦太陽が居るようになって周りの人達は察したようだった。
特に何か言うでも無く、遠巻きに僕達を見ているようだった。
桜宮果穂さんはモデルのようなスタイルと美貌をしていて、深紅の薔薇のような人。
漆黒の黒髪を背中の半分まで伸ばし、目を引く美人だ。
彼女と比べたら、僕なんてただのひょろひょろのもやしみたいなもんだ。
恭弥の腕に触れ、楽しそうに話している姿に胸が痛む。
でも、それが恭弥の選んだ道なら、僕は笑顔で祝福しなくちゃいけないんだ…。
そんな風に考えて落ち込んでいると、クラスが何やらざわつき始めた。
恭弥がハッとした顔をして走り寄り、僕の身体を肩に担ぐと
「済まない!窓を開けて換気してくれ!」
と周りに指示を出し、恭弥はそのまま健室へと走り出した。
「月夜お前、抑制剤飲んでるのか?」
そう言われて、あの日からすっかり飲み忘れているのを思い出した。
「あ…飲み忘れてた」
そう呟くと、恭弥は舌打ちをして
「お前な!自分がヒートを起こしたら、周りがどうなるのかちゃんと考えろ!」
と怒鳴った。
「ごめんなさい…」
情けなくて涙が溢れてくる。
僕は別れた後でも、こうして面倒を掛けてしまうんだ。
保健室に着くと、鍵が掛かっていて石井先生が不在だった。
「こんな時に!」
恭弥が保健室のドアを殴ると、僕の腕を掴んで柔剣道室まで行き、鍵を開けて僕を中へと入れて
「良いか!石井先生が来るまで施錠して絶対に開けるなよ!」
そう言うと、僕に背を向けた。
「待って!お願い、恭弥。待って!」
走り去ろうとする恭弥に必死に縋り付くと、恭弥の腕が僕を強く抱き締めた。
「頼むから…、その匂いがしてる時にそんな顔しないでくれ。俺が正常で居られる間に、石井先生を呼んでくるから」
そう言うと、恭弥の腕がゆっくりと解けた。
抱き締められた時、恭弥の身体が僕に反応しているのは分かった。
でも、恭弥は僕の身体から離れると
「良いか!俺が出たらすぐに施錠しろ!」
と言い残して飛び出して行ってしまった。
その後ろ姿を見て、もう…、本当に終わったんだと思い知らされた。
しばらくして石井先生だけが現れて、僕の腕に抑制剤の注射を打った。
「先生…恭弥は?」
保健室に運ばれてベッドの中で尋ねると
「大丈夫だよ。発情抑制剤打って上げたから。
もう、落ち着いていると思うよ」
そう言われて、僕は溢れ出す涙を堪える事が出来なかった。
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