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第2話

期待はずれもいいところ、友人とのセックスは、痛いだけだった。彼女とマンネリなのも分かる。 本人は愛撫をしているつもりで、ことごとく、いいポイントを外して、かさついた手で擦るのが、くすぐったいといより、痒いようだし、後ろを慣らすのを怠って、性急に乱暴に挿入するから、流血して、後始末が大変ならば、後遺症もひどい。 もっと訳が悪いのは、俺が萎えていようと、蛙のように顔をひしゃげ、どれだけ痛ましげに泣こうが喚こうが、かまわず「いい!いい!いいよ!」と一人大フィーバーして、遮二無二、腰を振るところ。「現実よりバーチャルのほうがずっといい」と遠い目をする俺に対し「なあ、もう一回!」「明日もしようぜ!」と喜色満面に、犬よろしく盛ってくる始末。 そりゃあ、「いやだよ。男でも他の奴に」とお断りしたかったけど「ハメ撮りしたの、どうしようっかな」と脅されてしまい。毎日、毎日、安ホテルに引っぱられて、突っこまれて、尻から流血させられて「今日もよかった。また明日な」とかさついた唇で、頬に口付けられて、お腹を下されて。 もちろん、帰宅して再挿入される意気はなく、でも、毎日欠かさず、ゴーグルを装着した。セックスというより、虐待に近い行為を強いられては精神がまいりそうで、といって、誰にも相談できなかったから、アイちゃんにセラピストのような聞き役になってもらったのだ。 まあ、設定上、恋人であるアイちゃんに浮気に当たる内情を明かせなかったとはいえ、他愛ない世間話をするだけで、心安らいだし、猫がじゃれあうような愛撫をし合って、先にできなかった射精をすれば、傷ついた心身がすこしは癒された。 現実が生き地獄のようだからか、バーチャルにとことん依存したせいか、どんどん病んでいった俺は「ちゃんとセックスできなくて、ごめん」と見境ない物言いをするようにまでなった。AIに実質的な性欲はないというに。 「いいんだよ。それより、ヨウくんが心配だ」と寂しげに微笑むアイちゃん。性欲のないAIの気休めと分かりつつ、ほろりときて、でも、友人とのセックスで涙を枯らしたから、嗚咽だけを漏らす。 「悩みを話せなくていい。ただ、これだけは覚えておいて。なにがあっても、どうなっても、僕は味方だから」 高性能すぎるAIの励ましに「もう、バーチャルの中にいたまま、死にたい!」と感極まったもので。その日は、ゴーグルを装着したまま、アイちゃんに膝枕をしてもらったまま、就寝した。 ※  ※  ※ 昨夜、アイちゃんに背中を押されたように思い、すこしは奮い立とうとしたのが「こい!」と額に青筋を浮かせた友人に、腕をつかまれ引っぱられていった。待ったをかける暇もなく、安ホテルについたなり、ベッドに倒されて。 「久しぶりに、彼女とセックスしようとしたら、勃起しなかったじゃねえか!どうしてくれるんだよ!」 ふだんから、不条理な物言いをする友人とはいえ、お門違いなクレームを、渾身に被害者ぶって訴えてくるのは、さすがに恐ろしかった。が、アイちゃんの励ましを思い起こし、生唾を飲みこんで「俺が原因じゃなくて、もともと」と抗弁しようとしたら、首を絞められてしまい。 「勃たなくなったんなら、もう用済みだって、彼女に別れを切りだされたんだぞ!お前のせいだ!お前が誘惑して、俺をこんな体にしたから!」 友人とセックスをしだしてから、体重が落ちて、顔色も悪くなり、日々、痛めつけられる体は、生気を失うばかり。逆に肌艶も血色もよくなった健康体の友人に乱暴されては、とても対抗できない。 せめて、一言でも抗議したかった。と、悔いながらも「最後にアイちゃんと会いたかったな・・・」とこれまで培ってきた、美しきバーチャルメモリーに思いを馳せようとした、そのとき。 轟音がすると共に、ホテルの壁が崩れ、友人がふっとばされた。目にも止まらぬ早さで、重厚感のあるものが鼻先を掠めていって。 朦朧とさせていた意識を持ち直してから、上体をすこし起こして見れば、外側のホテルの壁が崩れ落ち、内側の壁には鉄柱が突きささっていた。鉄柱を吊っているのは、おそらくクレーン。 翌日、ニュースで「コンピューター制御のクレーン車が、昨夜、ハッキングされて暴走しました」と報じられた。近くの建築物(ラブホテルは伏せられた)に吊るしたままの鉄柱を衝突させ、その室内にいた一人を死亡させたとも。 訳が分からないまま、消防隊に救出され、病院に連れていかれた俺は、病室でそのニュースを見たとたん、はっとした。まだ退院の許可がでていなかったものを、病院を跳びだして自宅のアパートへ。 膝枕されて寝たときのまま、部屋の中央に置かれているゴーグル。ゲームを起動させ、急いでゴーグルを装着したものの、三百六十度、どこを見回してもアイちゃんは見当たらなかった。 他にもお題のBL小話をアルファポリスで公開しています↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/352542676/358431393

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