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7話 大いなる誤爆(軽く死ねる)

 田川到流が竜宮城内の海鮮レストランでのアルバイトを終えた午後8時過ぎ、ロッカーに入れておいたスマホをチェックしていると、昨日ID交換をしたばかりの文雄からLANEメッセージが入っていた。 「ん、何これ」  何かのテキストファイルが添付されていたが、それだけだ。他にメッセージも何もなかったので、一体なんだろうと到流はそれを開く。 「……『うさぎたちの昼と夜』? え、何……」  うさぎという単語に、昨日一緒にやったネバドワのことでも書いているのかと思ったが、まるで予想とは違った。  そのファイルは小説のようだった。著者名は『ミオ』。そしてイタルという名前の探偵が主人公の物語が展開されていたのだった。  なんだかおかしくて軽く吹き出す。軽いタッチの小説はまあまあ読みやすかったが、良いところで終わっていた。しかしそれよりも、何故これを到流に送ってきたのかが不明だ。  自分のロッカーの前で、これは感想を送ってやるべきなのか、それとも単なる誤送信なのか、可能性を考える。 (まあ、誤爆だろな。知り合ったばっかで前置きもなく、いきなり自作の小説送ってくる変わり者はいないだろ)  昨日ID交換でやり取りをしたばかりだった。履歴からいきなりぽこんと送信先が浮いてくることがある。指が滑った可能性が高い。  さて、本人は気づいているのだろうか。  楽しくなってきて、悪戯心が芽生える。  バイト帰りにスーパー銭湯に寄って、サウナに入ろう。そして文雄の小説への感想でも考えて、送ってやろうと思ったのだ。 「──あ」  到流が竜宮城でバイトしているのに、深い理由があるわけではなかった。ただ銭湯が好きで、仕事帰りに気軽に寄れるからなのだが、二日続けてのスパ銭で、二日続けて文雄に会うとは思わなかった。 (まだ感想考えてないのに)  相手から何か言われるかもしれないが、とりあえず黙っておこう。到流が入ってきたことにまだ気づかないようで、体を洗っている文雄の隣の椅子に腰を下ろした。ケ□ヨン桶にお湯を注いでいたら、やっと気づいたようで文雄がこちらを見た。 「あ、れ。また会ったな。昨日はご馳走さま」 「いーえぇ。文雄さん、ここ良く来るんすか」 「昨日ここの回数券が安かったもんで、買ったんだよね。到流くんは……仕事上がりかな?」 「ええまあ」  頭を洗いながら気さくな文雄に受け答えしながら、到流は会話とは違うことを考えていた。 (やっぱどっかで会ったことがある……この体のライン。どっかで引っかけたコネコちゃんと似てるのかな?)  ネコちゃん大好きは海鮮レストランの店長がつけたキャッチフレーズだ。以前少しだけ付き合ったことがある。お互い本気ではないので熱くなることはなかったが、ふざけた店長が到流に「ネコちゃん大好き」の称号を授けたのだった。 (確かに好きだけどねえ……)  小さく笑い、体を洗い終えてその場を去ろうとしている文雄に声を掛ける。 「そーだ、ミオちゃん」 「……おいぃ、せめて『ちゃん』は」 「文雄さん。サウナで待っててください。ネバドワの話、しましょ」  到流が考えていることを悟らせない、柔らかい笑顔を浮かべると、文雄は数秒不思議そうな視線を向けたが、軽く頷いた。

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