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8話 感想とか乾燥とか(同音異義語)

 言葉の通り、文雄はサウナに蒸されて待っていた。むわむわしたサウナ室には、恰幅の良い中年男性とやせ形の青年が中央に陣取り、何やら風呂に持ち込める仕様のおもちゃの将棋で盛り上がっていた。果たしてサウナでそんなことをしていて大丈夫なのか。到流は少し眉をひそめたが、二人が夢中で指しているので放っておくことにした。その二人に遠慮するように、文雄は端の方で一人目を瞑っている。 (あ、エロい)  何やら考え事に耽っているその難しそうな顔が、到流の性癖を突いてきた。  この気難しそうな顔を、崩してやりたいと思った。 「……文雄さん」  一度声を掛けたが気づかない。  どれだけ集中力を発揮しているのだろう。もしかして先程の小説の続きでも考えているのだろうか。 「ミオさん」  再度声を掛けると、文雄は我に帰ったように目を開いた。先程の気難しい表情は消えていた。 「だからその名前で呼ぶなよ……恥ずかしいから」 「だって文雄のミオでしょ。別に恥ずかしくないです」 「そうだけど」 「そいや小説書いてるんですね」  さらっと出た到流の言葉に、文雄の体の動きが硬直する。サウナなので当然と言えば当然なのだが、ぶわっと汗が噴出した気がした。 「──『うさぎたちの昼と夜』。なんで俺がうさぎ探偵なんです? 俺のこと好きなんですか」  畳み掛けてみた。文雄は、固まってしまった体をぎりぎりと動かし、すぐ隣に腰かけた到流を信じられないものを見るような目で見た。 「何故……知っている」 「やっぱ誤爆でした? 俺のLANEに送りつけてきた小説」 「……ま……まじか……」 「感想言っていいです?」 「感想……っごほっ」  文雄は鬼の形相で低く唸ったあとにむせた。しかし到流は気にすることもなく、笑みを浮かべる。  少し離れたところでは相変わらずサウナ将棋が繰り広げられていたが、あちら様も勝負事に夢中で、こちらのことはまるで気にならないらしい。 「喉渇いたんですか?」 「……かっさかさに乾燥したよ、今ので」 「感想と乾燥を掛けたんですね、さすが物書きさん」 「茶化すな……」  文雄は気まずそうに紅潮した顔をそむけ、到流の視線から逃れた。 「面白かったです」 「……そ、そうか」 「詰めが甘いですけど」 「…………あれは、あとで肉付けするつもりで」  文雄がむっとしたのが声だけで伝わってきたが、気にすることもなく続ける。 「俺が監修してあげましょうか」 「なんだよその上から目線」 「めちゃくちゃ的確にツッコミいれてあげますよ? 俺はスパルタなので、凹んだらすみません」 「なんなんだその自信は……!?」  文雄が不審がるのも無理はないだろう。けれど到流には自信があった。その自信にはちゃんとした裏付けがある。 「ネバドワのゲームシナリオ……書いたの、実は俺なんですよ」  ゲームシナリオと小説とでは畑が違うかもしれないが、話の構成などへのアドバイスは出来ると到流は思う。  仲良くなり、あわよくば文雄を自分のネコちゃんにしようと目論んでいるなんて、表には一切出さないでおいた。  

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