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第6話

「乳首が変だから振られたのか?」 「違います」 「言わないだけでそうだろう」 「そもそもそんな深い仲になってませんから」  勢い余って余計なことを言ってしまったと思ったが、もう遅い。ベッドに寝転んでいたリオラムが起き上がって真面目な目を向けてくる。 「一度も?」 「……は?」 「一度も女と寝たことがないのか?」  触れられたくないところを突かれバーディンの顔がさらに熱くなった。あまりの恥ずかしさと怒りに我を忘れてしまった。 「そ、そ、そんなことリオ様には関係ないでしょう!」  思わず幼少期のあだ名で呼んでしまったことに、バーディンは気付かなかった。ガラスが震えるほどの大声で怒鳴りつけると、リオラムの手を振り払ってベッドを離れようとした。 「バーディン」  再び背中の裾を掴まれてバーディンは立ち止まった。そんな手など振り払えばいいのに、それができなかったのはその声が泣きそうだったからだ。  振り返ってはいけない。そう思うのに、結局抗えない。 「悪かった。行かないでくれ……、頼む」  リオラムはベッドに横たわったまま、潤んだ目を向けている。こんな風に懇願されて、逆らえるわけがなかった。 (まったく……。本当にタチの悪い人だ)  踵を返して再びベッドに戻ってしまう自分は彼を甘やかし過ぎているのだろう。主人はブーツを履いたままの片足をこちらに向ける。 「靴が脱げない」  向けられた靴に何のためらいもなく手を伸ばすと、紐を解いて丁寧に脱がせる。頭上から食い入るような視線を感じたが、あえて無視を貫いた。ただ靴を脱がせているだけだというのにバーディンはひどく緊張していた。  膝丈のブーツを両足とも脱がせてベッド脇に揃えて置くと、今度はその手を掴まれて胸元に導かれる。 「……こっちも」  首にぴったりと巻きついた襟元のボタンを外せということらしい。命令通りにボタンを外そうとしたが、緊張に指先が震えてうまくできない。一番上のボタンを外した時、頰を上気させたリオラムが見えた。  まずい。  何がまずいのか言語化はできないが、とにかく本能がまずいと叫んでいる。 「わ、私はこれで……あっ!」  逃げようと身を起こそうとしたが、両手を掴まれてベッドに押し倒された。バーディンは不意に押し倒された時の身のこなしも、そこからの反撃方法も熟知している。しかしその相手が主人である場合の対処法など知らなかった。ただ無様にベッドに沈む以外どうしようもなかったのだ。 「リ、リオラムさ……、んっ……」  起き上がろうとしたところにリオラムが覆いかぶさってくる。  唇を湿った何かで塞がれた。それがリオラムの唇だとわかると動揺に目を見開いたまま固まってしまった。  生まれて初めてのキスだ。  彼の香水に混じってわずかにアルコールの香りがする。ぬめりとした舌が唇を舐めてから歯列を割って入ってくる。 「ふっ……んん……ッ」  口内で逃げる舌を舐められると驚いた拍子に上ずった声が漏れた。自分の声の甘さに鳥肌が立った。  どうすればいいのかわからず、シーツを握っているとその手を彼の背中に誘導される。下から抱きしめるような形になって体を密着させた。  自分よりもひと回り小さい体にしがみつく。太ももあたりに硬いものが当たっているような気がするのは何かの気のせいだろう。そうだ、気のせいに決まっている。  拒絶しないとと焦る気持ちがあるのに流されるままにキスを続けている。それは忠誠心の賜物というよりは不慣れによる思考停止に近かった。

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