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ちょっと不安になりました

※  目が覚めると視界は明るくて、薄暗い中に色と光の暴力のようなネオンも消えていた。けれどそれでもこの場所は灰色か黒か銀で、色味としては殆どなにも変わっていないようなものだった。  体を流してもらった後のことは、正直殆どなにも覚えていない。眠りに入った状態で、なけなしの本能かなにかで動いていたのかもしれない。気が付けば知らない服を着ていたし、それもこの部屋と同じような灰色だった。上下ともに灰色の、スウェット。多分、十センチは大きい。  ずっと床に這いつくばっていたのか、その状態は起こしてはくれなかったのかと少しだけ毒づいてしまったけれど、そもそもここにいるだけで奇跡かもしれない。放ってもおかないし警察にもつれていかれなかった。  灰色と黒と銀の部屋は、僕の中の家とは少し形状も見た目もイメージが違う。床は冷たくて硬いし、壁はコンクリートのままだった。部屋を仕切る壁もなくて、ただただ広い。本来は家の用途ではないのかもしれない。  這い出した風呂場と思っていた場所もそうではなくて、後から付け足したようなシャワーのみの場所だった。そこにだけは仕切りがある、ガラスかなにかの、すりガラスか曇りガラスか、なんかよくわからない壁が。  そこから這い出て、ほんの一メートルの場所でこと切れた僕は自覚してそこで眠ったのか、なんとか硬く冷たい床に敷かれたカーペットの角で落ち着いていたらしい。  もう、本当に限界まで眠かったにしても、どれだけ限界だったのかすら、動いたことも覚えていないから仕方ない。床で眠った体は動く度にぎしぎし鳴った。関節も骨も、眠れはしたけど全然休めなかったんだと思う。  膝で立って、そのまま進んだ。目線の先にあるベッドの上に盛り上がる布団を見たから。ほんの少しだけ上下していて、それがきっと昨日の男の人だろうから。  命の恩人、恩人、どんな人だったのか。沼みたいな目をしていたくらいしか、覚えていなかった。  眠っている顔を覗き込むと、思っていたより年上だった。僕を見てあんまりにも困っているばかりだったから、もっと若い、こういうことには慣れていない普通の人だと思っていたけれど、こんな家には住んでいるし、拾ったばかりの僕をシャワーまで面倒見るし、着せるし、そもそも拾うし、全然普通の人ではないのかもしれない。  起きる気配もない。きっと、あんな時間にあの場所にいたのだから夜の仕事の人なんだろう。今がチャンスかもしれないと思ったのは何故なのかはわからないけれど、今こそと部屋の中を探索した。  部屋の壁の半分は九十度右に回ったⅬ字で大きな窓が一面に広がって、そこにカーテンの一つもない。近づくと窓は僕の膝まであって、上は天井間近までもある。  元々は不動産屋かなにかが入っていたのかもしれない。窓の外に広がる景色は歓楽街のど真ん中という風ではなく少し離れた場所で、どちらかと言えば古びて見えるけれど、夜にはここも光のうるさい場所になるのはもう昨日でわかっていた。  一面の窓の、Ⅼ時の長い方の中腹から振り返ると丁度、昨日通った玄関らしき場所がある。少し奥まって、その左右にドアがあった。覗くと玄関から右手がトイレで左手がクローゼットだった。  部屋の左手にはベッド、シャワールーム。右手には小さなキッチンとダイニングらしいテーブルとイスがあるけれど、その為には使っていないようで脱いだ服やレシートが山になっていた。  キッチンにはコップが一つ転がっていたけれど、食器の類はそれだけだった。冷蔵庫を覗いても卵が三つにそろそろ元気がなくなりそうなミニトマトが四つ。冷凍庫にはいくつか食べ物が入っていた。本当にここで暮らしているのかは不安になった。けれど、それよりも、 (この人ぼくを飼えるのかな)  自分の世話があまり得意ではなさそうだった。  部屋に他の人の気配もない、大丈夫なのだろうか。ここにいても、いいのだろうか。

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