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おなかがすきました

※  全然起きない。本当に起きてくれない。  リョウジ君に捨てられてしまったのだから同じようには生きなくていいのはわかっていたけれど、この男の人がどういうつもりでぼくを拾ったのかがわからない以上、勝手になにかをする気にはなれなかった。  お腹が空いた。昨日ご飯を食べたのは朝だったか、いや、リョウジ君が起きるのが遅かったからお昼前。そこからなにも食べてない。しいて言えば水は飲んだ。あんまり綺麗じゃなかったはずの海水は結構飲んだ。  指先でつついてみても、薄い布団を引っ張ってみても、男の人は身動きもしなかった。本当に起きてくれない。  ひもじくて悲しくなってきた。お願いだから早く起きてください。  男の人の足に覆いかぶさった。つついても引っ張っても起きないなら重くて起きてください。 「おい」  やっとで、ちょっと泣きそうになった。 「ハッカ」  少し変な間が空いたのは、きっとぼくを呼んだリョウジ君の声を思い出してたんだろう。  名前を呼ばれたら顔を見る、それは最初の飼い主からの決まり事。  眠っていた時よりも眠そうな顔だと思ったけれど、まだ、今起きたばかりだからかもしれない。沼のような昏い目も、更に昏いから、きっとそうなんだろう。  でもとりあえず、お願いします、お腹が空きました。ひもじくてひもじくてたまりません。  全然、この人にとってこれが正解なのかもわからなかったけれど、とにかく伝えないことにはご飯も、水ももらえない。お願いします、ちゃんと起きてください、おなかがへりました。 「おい、おい」  これは誰からの時からご飯の動きだったっけ。リョウジ君からじゃない、もっと前。 「おい、聞こえてんだろ、やめろ」  起きましたか、ご飯をください。  押し離す手が、まるで小さな子供を抱っこするみたいだ。それか動物を抱き上げるみたいな。ぼくの場合それで合っているんだけれど。  男の人はぼくを横にどけながら、自分の体をベッドから抜け出させていた。  もしかして、こっちの人じゃなかったのかもしれない。  どうしよう、間違えたかもしれない。  男の人は、ぼくに構うことなくキッチンへと向かってしまった。いや、それがお願いなんだけれど、でも、間違ったかもしれない。  急激に不安になった。そうじゃない人なんだとしたら、ぼくはまた外に出されてしまうのかもしれない。いや、もし全うな人なら警察かもしれない。いや、でもぼくのことは拾ったし、洗ったし、おなかすいた。  ご飯の焼けるにおいがする。はやくください。  男の人は、お皿をベッドにおいてシャワーに行ってしまった。青いお皿に乗った食パンと目玉焼きと、トマト。お皿、イッタラだ。絶対にこの男の人の趣味ではなさそう。  でも、待ってください。ぼく、そういうのやってないです。  男の人がシャワールームから出て来た途端、本当に音が聞こえそうなくらい愕然としていた。ちがうんです、おなかはへってます、すごく空いてます。でも、あなたがどういうつもりなのか、思ってるのと一緒なのか知らないと、ぼくも食べられません。どっちのひとですか。 「食えよ」  見下ろしてないでどっちかおしえてください、ひもじいです。  やっと、男の人がお皿を手に取った。ベッドに座って、まだ少し考えてから、トマトを摘まんでぼくに差し出した。  よかった、やっとご飯を食べられる。  男の人は観念したようで、差し出したトマトを受け取るのではなくて口に入れたのを見た後は、他のものも全部、口に運んでくれた。焼いた食パンも、乗せた目玉焼きは途中でお皿と男の人の手に落ちたけど、それを舐めるのはやめておいた。リョウジ君相手ならしなければいけなかったけれど、この人はまだ、よくわからないから。  時間を気にしながらぼくに食べ物をくれた。食べ終わったらすぐに身支度をして、ペットボトルの水をベッドに置いて「水くらい飲めよ」と言って部屋を出て行ってしまった。  意外と、このまま置いておくんですか。  なんだか、不思議な人だけどぼくのことを邪魔には思っていないようだった。それに、ペット扱いはしたくないようだった。なにもしないでいるぼくに困ってもいるし、食べさせる時もその気ではなさそうだった。  ここにはいてもいいみたいだけど、ちゃんと考えないといけないかもしれない。 (いつ帰ってくるんだろう、昨日は何時だったのかな)  仕方なく部屋の中を散策した。本当になにもなくて、不安になった。

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