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第6話
課長は……口ごもった。しゃっきりせんかいっ! と自分を叱り飛ばして笑顔をこしらえた。
「課長は……シブい言い方をするとホの字さんの人にプレゼントするものを買いにきたんですか」
「〝ホ〟は惚れるの省略形のホか? まあ、だいたいそんなところだ」
と、答えると照れくさげに髪をかきあげた。
ガーーーーーーーーーーーーーーーッン!
俺のHPはゼロになった。たったいま出家して、あえなく砕け散った恋心の冥福を祈りながら一生を終えたい……。
それでも表面上は、
「今の話、トップシークレットものっすよね。口止め料に焼肉でもおごってもらわなくちゃだな」
なんて調子で口笛を吹く真似をしてみせるあたり、俺って役者の素質十分かも。
「口止め料を要求するとは、案外ちゃっかりしてるな。じゃあ、今週末に食べにいくか」
指切りしてください! とせがみそうになる自分に必死にブレーキをかけた。その一方で心の中の尻尾が、ぱたぱたぱた。
「それはそれとして、売り場をひと通り見て回ったが、どのチョコもイマイチ決め手に欠ける」
そこで、ため息をつかれると、まだ見ぬ恋敵に呪いのワラ人形を送りつけたくなってしまうではありませんか。
「見た目は不恰好でも手作りのチョコのほうが真心がこもっていて、包みを開けた瞬間のインパクトが大きいと思わないか? よって試しに作ってみようと思う」
はにかんだふうに睫毛を伏せるさまに、胸がきゅうううんとなった。どちらかといえばカタブツな咲良さんの心を捉え、さらにお菓子作りに駆り立てるミスX(あるいはミスターX)が羨ましいやら、妬ましいやら。
こちとらは告っても玉砕するのがオチで、片恋に身をやつす日をじっと堪え忍んでいるのだ。この恋が成就する可能性などタイムマシンが実用化にこぎ着けるより低いから、せめて咲良さんの腹心の部下と呼ばれる立場に昇格したい。
それも高望みがすぎるなら板チョコを湯煎するさいに、しなやかな指と戯れるであろうヘラになりたい……。
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