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第3章 ケダモノ降臨!?
第3章 ケダモノ降臨!?
折悪しくビールを呷ったところに斬り込んでこられた。ぶぶぅっ、と噴き出すまぎわにかろうじてビールを嚥下すると派手にむせた。
「にゃ、にゃ、にゃにを根拠に某 が貴公に想いを寄せているなどと、かようにケッタイなことをのたまうのでおじゃりまするか」
阿波踊りの腕運びと、背泳ぎのストロークを足して二で割ったふうに両手を振り動かしながら後ずさった。ネタは上がっている、観念しろ、と言わんばかりの冷徹な視線に射すくめられて気をつけをするさまは、まさしく敏腕刑事 とコソ泥の図。
「営業部に配属されて、かれこれ十ヶ月。春、夏、秋とだんまりを決め込まれ、いいかげんクリスマスには腹をくくって告白しにくるだろう、と勝負パンツを穿いて出勤しても飲みに誘ってくるわけでもない……」
一拍おいて、ため息交じりに言葉を継いだ。
「期待して損した。クリスマスにひとり侘しく縄のれんをくぐるのは、ミジメなものだぞ」
耳が痛い。当たって砕けろの精神でおれにぶつかってみる度胸もないウジ虫野郎、と暗に嘲罵された気がしてハートがずたぼろになっていく。
俺は、へなへなと頽 れた。そのくせ冷ややかな眼差しを向けてくる咲良さんは日ごろの三倍増しに麗しく、一瞬たりとも目が離せない。
「明日のバレンタインにしても、そうだ。『一緒にチョコを作りましょうよ、きゃぴ』と、お膳立てを整えてやらなければ、なんらリアクションを起こさずじまいに終わった可能性が大だな」
腕組みをしてふんぞり返ると、椅子の前脚にあたる側を浮かせて前後に揺らした。
「いつから……その、俺が邪 な意味で課長をお慕い申しあげていることに、いつから気づいていらっしゃったんですか」
手ぶりでせっつかれて、椅子の正面ににじり寄った。新しい缶ビールを献上たてまつると、白魚のような指に顎を掬われた。
恐るおそる目線を上げていけば、咲良さんは前かがみになって、額が触れ合う寸前まで顔を近づけてきた。
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