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第15話

「来る日も来る日も秋波を送ってこられたら、よほどのニブチンでないかぎり遅かれ早かれ気がつく……のが普通だが、おれは事、色恋沙汰に関してはスキル不足だ。そっち方面の機微を解さないことにかけては自信がある」 「と、申しますと迂闊にも発射してしまうことがままあった、好き好きビームがハートに命中したとかじゃなくて……?」  しょぼくれた顔が、レンズを通して仰ぎ見る虹彩に映し出される。かたや咲良さんは、悠然と足を組み替えた。 「ブラフで勝負に出て勝つとは、我ながらバク才があるな。種を明かせば当てずっぽうで言ったにすぎないものが、どんぴしゃりだ」 〝当てずっぽう=当て推量の口語的表現、確かな根拠もないのに自分勝手に推し量ること〝。by新明解国語辞典……、 「あああ! 墓穴を掘ったぁああああ!」  近所迷惑も顧みずに大絶叫、正解、と咲良さんは缶ビールを掲げた。  俺は、がっくりとうなだれた。体育座りに縮こまり、俺のバカ、バカと自分の頭をぽかすかと叩いた。  カマをかけられて、あっさり引っかかるとは抜け作にも程がある。土砂降りのなか外回りに出かける前に咲良さんを見つめてエネルギーを充電したいときも三回に二回は我慢して恋心がバレないように努めてきたのが水の泡になってしまうくらいなら、ダメ元で告っておけばよかった。  正座に膝をたたみ直した。社内恋愛は上手くいっているときは天国だけれど仲違いしたが最後、地獄だという説は、あながち大げさとは言えない。  実際、今この瞬間に失恋が決定し次第、ばきばきと心が折れて、それでも出社すれば否が応でも咲良さんに決済をもらいにいく立場にある。  ただ、これまでと違い、咲良さんのことを密かに恋い慕うことさえはばかられるという日々が続けば、切なさが高じて出社拒否に陥るかも。  でも……と俺はスラックスと一緒くたに太腿の肉を摑んだ。青二才の分際で花型営業マンに懸想するとは百年早い、寄るなさわるな、とっとと()ねさらせ、と罵倒されて蹴り出されないだけマシなのかなあ、はあ……。

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