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第20話

「課長、これは立派なセクハラです!」 「好意を寄せてくれる相手に最上級の好意で応えている。なんら不都合はあるまい」 「不都合はあります、大ありです」  手っ取り早く反論を封じる、あるいは子種の含有量を量るという意図のもとにそうしたのかもしれない。ぎゅむむ、とタマ袋を揉まれた。  これは怖い、思わず死んだふりをしてしまうくらい、おっかない。タマを握りつぶされた日には、ガラガラガラッとアイデンティティが崩壊しかねないのだ。  勢いあまって、ぐしゃりといきませんように。オネエキャラに華麗なる変身を遂げて第二の人生を歩む、などという羽目に陥らずにすみますように。  身を硬くしている間にボクサーブリーフがめくり下ろされて、ふくらはぎの位置で丸まった。返す手でワイシャツをたくし上げられると、下半身丸出しというあられもない姿をさらすことになる。ただしネクタイは締めたままなので滑稽、且つ珍妙な恰好だ。 「脱ぐと、たくましさが際立つな」 「お褒めにあずかり恐縮です……っていうか、悪ふざけはこのへんにしてスイーツ教室の続きをやりましょうよお」 「夜は長い、そう急かすな」  俺は息を呑んだ。なぜなら、尻っぺたの両脇に浮かび出たえくぼを撫で回されたのだ! 「大殿筋が発達していて、ぷりっぷりとした尻だな。何かスポーツをやっていただろう、競技はなんだ」 「はあ……小・中・高校を通じて野球小僧でした。ちなみにポジションは投手です」 「さぞかし剛速球でバッターをきりきり舞いさせたクチなんだろうな。胸板の厚みも、なかなかのものじゃないか」  掌が、ワイシャツの内側に忍び込んできて胸元を這い回る。指が蠢くにつれて、すんなりしたシルエットがワイシャツに映し出される。  こそばゆい、にもまして、あれよあれよという展開に頭がついていけない。それでなくとも餅肌には程遠いわけで、撫でさすってみても、とりたてて面白いとは思えない。  ちょぼちょぼと生えている胸毛にしても、中には不潔と眉をひそめる人もいるし……。

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