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第25話

 マウントを取られてしまうと咲良さんを撥ねのけて彼の下から這い出すことはおろか、簡易拘束具のネクタイが、ますます手首に食い込む。  この調子でいけば明日は出社するにあたってはリストバンドか何かで痣をカモフラージュする必要に迫られ、あらぬ憶測が乱れ飛ぶのは必至。  名案が浮かんだ。以前、ななめ読みしたアウトドアの入門書を頭の中で(ひもと)いてみる。えっと……火の(おこ)し方の一例として棒の先端を板に押しつけて、で、錐揉みに揉むというやつが図解付きで紹介されていたっけ。   そのやり方を参考に、手首をひねりにひねりまくる。結び目がゆるみますように、ネクタイがほどけますように……そう念じつつ。  俺がネクタイと格闘している間も、チョコソースがこってりと塗りつけられては、乳首と一緒くたに舐めとられる。  困った……本当に困った、いよいよドツボにはまった感がある。鎮まれぇ、萎えろぉ、と再三にわたって言い聞かせても、親の心子知らずを地でいくムスコは一向におとなしくなる気配がない。  それどころか乳首がチョコソースと唾液にまみれてテカれば、競い合うように怪しい雫をにじませる始末だ。 「こりこりしてきたな。干しぶどうというより木の実めいた舌ざわりだ」 「もっ、やめてくださ……ぅ……」  しゃぶり尽くされて、ほっとしたのもつかの間、チョコソースがまた塗り足される。息づかいが徐々に荒くなっていき、意識して呼吸を整えるそばから、チョコソースをたっぷりと含ませた刷毛が乳首に舞い戻ってくる。  咲良さん、優秀な営業マンで段違いの契約率を誇る咲良さん。飛び込みで営業をかけて新規の取引先を開拓するあなたは、何事にも全力投球でぶつかる方なのですね……。  かじられ、吸われ、舐めつぶされて。手を替え品を替えて攻めたてられたすえに、ふやけるに至った乳首が、甘ったるく疼くようになってきた。  怖いもの見たさ的に、頭をもたげて様子を窺う。眼鏡のフレームが胸板を掃き上げては掃き下ろすさまが、さらさらの前髪を透かして見え隠れすれば目のやり場に困る。  その反面、()まずたゆまず蠢く舌に魅せられてしまう。執拗さを増す視線が癇にさわったようで、咲良さんが睫毛をあげた。  その瞬間、ばくんと心臓が跳ねた。

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