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第31話
と、煙草を揉み消すと咲良さんはまたもや奇矯なふるまいに及んだ。ありていに言えば、やおら俺の顔を跨いで膝立ちになったのだ。
ジィ……っとファスナーを下ろす音が、荘厳な響きをともなって鼓膜を震わせる。かたじけなくも畏怖の念に抱くことに、銀鼠 色のスラックスの前がくつろげられたのであった!
「おれの……これを頬張ってみたいか」
眼球がこぼれ落ちんばかりに目を見開いた先で、ボクサーブリーフがずらされた。栗色がかった和毛 を背景に現われいでたるお宝は、本人に負けず劣らず優美だ。やや細身ながらも綺麗な曲線を描き、しゃぶりごろに熟れていた。咲良さんのご子息は、百万カラットのダイヤモンドより燦然と輝いて見えた。
「早瀬の気持ち次第だ。そそられる、というのであれば『あ~ん』してごらん」
これを愚問と言わずして、何をもって愚問と定義づけるのか。俺は一も二もなく首を伸ばし、ごはんをちょうだい、とピィピィさえずる雛さながら、いそいそと花穂をお迎えにいった。
ところが舌が届くまぎわ、咲良さんが唐突に後ろにずれた。茎は無情にも遠のき、スカを食らった。嫌というほど舌を嚙んだ痛みに、思わず涙した。
くぅう、と顎に梅干し状の皺を寄せながら、倒れ伏した。鼻先でちらつかされたビーフジャーキーをかっさらわれた犬のように、いじけてもいいですか。
「いっぺんにアレもコレもと欲張っては次回の愉しみが減る。今日のところは早瀬を愛 でるにとどめておこう」
〝次回〟。鸚鵡返 しに呟くと、ゲンキンなことにでれでれと目尻が下がる。次回、と敢えて予告をするということは、とりもなおさず攻守交替といき、俺が、咲良さんを愛おしむチャンスが生まれるということだ。ところがどっこい、
「今夜は俗な言い方をすれば、おれが掘る」
爆弾発言がなされて、夢は無残にも打ち砕かれた。おまけに脳みその伝達系統に不具合が生じたみたいで、理解力が著しく低下する。
掘る……と、うわ言のように繰り返す俺に対して、咲良さんは事もなげに言い放った。
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