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第32話

「そう、掘って喘がせる。共同作業の結果、極旨のチョコが完成した。このへんで別の共同作業に取りかかれば、飛躍度的に心が通い合うことだろう」  曖昧な相槌を打てば、咲良さんは威厳をもってうなずいた。おあずけ、と言うのであれば、目の保養に出しっぱなしにしていてほしいご自身を下着に一旦しまわれたのであった。 「後学のために一応、確かめておこう。男性経験はあるのか」 「ありっこないですよ! だいたい同性に恋したことじたい課長が初めてで、乳首に吸いつかれたのも、銜えていただいたのも、神に誓って今夜が初めてです」 「そうか、正真正銘のバックヴァージンか。では、おれで処男喪失といけば、なおのこと強固な絆で結ばれるな」 「ちょっ、ちょっと待ってください!」  その、たおやかな肩を摑んで咲良さんを押しやりたくてもネクタイに阻まれてしまい、はなはだだもって歯がゆい限りだ。窮余の策で、心ならずも咲良さんを()めあげた。 「タッパを例にとっても、俺の方が十センチ以上もデカいんですよ? むくつけき大男に突っ込もうだなんてゲテモノを趣味を通り越して、イカモノ食いです」 「早瀬は素直で性格が可愛い。ばっちり守備範囲で、啼かせるに値する存在だ」 「でも、ですね……!」  キスで反論を封じるのは、あざといと思う。 「悪いようにはしない。おれに身を委ねて、おとなしく寝転がっておけば桃源郷にいざなわれて、めでたし、めでたしだ」    レンズの奥の双眸が、妖しくきらめいた。悪いようにしない。それは、よからぬ魂胆があるときの常套句。  澄まし顔でタマ袋の奥の暗がりに指を伸ばしてくるところをみると、今や完全に悪代官の生霊が憑依しているに違いない。 「人体の構造に反する形ででつながるのだから、最初のうちは少々、泣き叫ぶことになるかもしれないが……」  くっ、と窄まりを押された。不安を感じてムスコが微妙に縮こまると、チョコの破片がぽろぽろと剝がれ落ちた。 「大丈夫だ。くやしいかな、おれのは早瀬のに較べればそれこそ粗チンだ。予防接種より痛くない。おれが、きみの最初で最後のオトコということで異論はあるまい」    くちづけを交えてかき口説かれたら覿面に胸きゅんで、めろめろになって、 「ふつつかものですが、よしなに……」  伏し目がちに答えてしまうに決まっている。  ちょっとおだてると、重役にだってタメ口をたたきかねない新入社員を一人前の営業マンに育てあげる辣腕家──。それが咲良さんで、彼にかかれば、俺を丸め込むことくらい朝飯前なのですね。  犬の遠吠えが、夜のしじまを切り裂いた。あぉおおおお~ん。俺も一緒になって吼えたい心境です。

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