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第34話

 と、咲良さんが俺の足下側に回り込んで膝をついた。時を移さず俺の足首を両方いっぺんに摑み、大根を引っこ抜くようなやり方で持ち上げた。  下肢がVの字を描く形に割り開かれ、腰が浮いたところに、つっかい棒を()うように太腿がこじ入れられた。直後、両足を下ろされても細腰(さいよう)を軸にM字開脚に固定された後とあって、逃れる術はない。  下半身方面に視線を流すと、チョコというペイントをほどこされて、なおかつ潜望鏡のようにそそり立った陽根が嫌でも目に飛び込んでくる。それはギブ・ミー・モザイクものの光景だ。  その正視に堪えないザマときたら、おむつを替えてもらうときの恰好を髣髴(ほうふつ)とさせて、みっともない。というより、それ以外の何ものでもない痴態に汗顔の至りなのだ。俺は、か細い声で懇願した。 「腕が痺れてもげそうです。後生ですから、ネクタイをほどいてください」  異なことを聞いた、といいたげに咲良さんは目を瞠った。眼鏡をひといじりしたあとで、ぽん、と拳を掌に打ちつけた。 「すまない。縛っておいたことをころっと忘れていた」 「度忘れすることって誰にでもありますもんね……っていうか、衷心よりお願いします」    尻でいざるたびに手首の関節が軋む。俺は呻き声を洩らしながら、全身を精一杯のたくらせた。ネクタイの端っこがウエストの脇から覗くように努めて、目顔で訴える。  咲良さんは一度はネクタイに手を伸ばし、けれど思い直したふうに手を引っ込めて曰く、 「ほどいたら遁走を図られる恐れがあるからな。愛の営みが無事に終わるまで、このままにしておこう」 「逃げません! だいたい、課長を力いっぱいぎゅうするのが夢だったんです。縛られてちゃ、抱きつけないじゃないですか」 「いじらしいことを言う。早瀬は確かに見た目は武骨なほうだが内面は純朴、且つ可憐で、その点が好ましい」  縛めが解かれた。手首を揉みほぐしにかかれば、その手が細いうなじにいざなわれて、さらに額をついばまれた。  瞼にも、頬にもキスが舞い落ちた。唇が合わさって、舌で舌を搦めとられると眼鏡のフレームが鼻梁にめり込んできて、ちょっと痛い。けれど咲良さんと初めて交わす本格的な接吻に、ぽややんとなっている間に何やらとろりとしたものが狭間に塗り込められた。  間を置かずギャザーがひと片、解き伸ばされて、びくっとなった。

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