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第40話

 正常位でコトに及ぶときとは、また別の恥ずかしさがある。抱き起こされて、ぎくしゃくと膝立ちになった。といっても、往生際が悪いことにネクタイで縛られた痕をさすって時間を稼いでみたりなんかして。  意を決して反転しても、今度はずり下ろされたっきりになっていたスラックスを踏んづけて、足がもつれる始末だ。  たかが這いつくばるくらいのことにもたつくさまに苛々してきたのかもしれない。さしずめ寝技のスペシャリストの本領発揮、という調子で覆いかぶさってこられた。  腹這いにひしゃげると同時に、頭を低くして腰を掲げる形に尻たぶを割り広げられると、蟻の門渡り方面は丸見えだ。ひらたく言えば、まな板の上の鯉のいっちょあがり……。  恥ずかしさの極致だけれど「好きな子」を心のよりどころに我慢、我慢。  衣ずれが鼓膜を震わせると、舌が干からびてしまったように、タイムを要求することさえおぼつかない。そのくせ後ろがひくつく。  もしかすると口をぱくぱくさせていて、誘いかけているように見えるかもで、誤解を解きたいのは山々だけれど、下手なことを言えばヤブ蛇になる恐れがなきにしもあらずだ。  四肢ががちがちに強張り、そこでギャザーが解き伸ばされた。すうっ、と冷気が針孔(めど)をかすめていったのと入れ替わりに、熱の塊がそこに触れてきた。丸みを帯びたものが、窄まりを押し分けにかかる。  襲いくる衝撃に備えて、毛布を握りしめた。相前後して、穂先が門をくぐった。ぐぐ、と傘が張った部分が通過するにつれて圧迫感が強まる。  ななめ後ろを振り仰いだ。以心伝心で願いが聞き届けられて、すくみ上がるたびにキスであやしてもらえるとくれば、めりめりと躰を()ち割られるような痛さに堪える甲斐があるかも。  舌と舌でじゃれ合っている隙にぐいぐいと攻め入ってこられると。新たな不安に苛まれる。後ろが裂けて病院に駆け込む羽目になったときは、医者にどう言って説明しよう……。

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