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第6章 高カロリーの愛(。・ω・。)ノ♡

    第6章 高カロリーの愛  さてさて翌バレンタインデイは、うれし恥ずかし同伴出勤なのであった。  だが、しかし死相が現われている俺に対して、オカピを一頭丸ごとたいらげたライオンさながら咲良さんの表情の晴れやかなことといったら、ちょっぴりお恨み申しあげます。  それに咲良さんが手ずから洗い清めてくれたとはいえ、ひとたびクシャミをしようものなら残滓がしみ出して下着を買いに走る必要に迫られそうで、へっぴり腰の、がに股でそろそろと歩を進める。  ああ、太陽が黄色い……。  息も絶え絶えに会社にたどり着けば、咲良さんにチョコを献上しにきた女子社員のみなさまがたが、すでに営業部の前の廊下に長蛇の列をなしていた。  俺は瞬時にゾンビ状態から復活した。咲良さんに寄るな、さわるな、と剣呑なオーラを発散しまくりながら睨みを利かせると、 「どうせ義理チョコだ。妬くな、目くじらを立てるな。本命のチョコは昨夜のうちに……」  咲良さんが右の頬にえくぼを刻んだ。 「きみから極上の(しな)をもらっただろう?」    共犯者めかして片目をつぶりながら、そう囁きかけてきた。  眼鏡のフレームが耳たぶをかすめると、妖しい余韻が残る最奥に響く。あまつさえ場所柄をわきまえず躰の芯に火が点っちゃって、危うくトイレに駆け込む羽目になるところだった。桑原、桑原。  この世に生を享けて二十と七年。古風な表現を用いれば益荒男(ますらお)なれど、あにはからんや受け体質だと判明した現在(いま)、過度の接触は公の場では慎んでいただきたいのであった。  ともあれ咲良さんは崇拝者ひとりひとりに深々と頭を下げて、すべてのチョコをお持ち帰りねがった。俺ひと筋だと、もったいなくも態度で示してくれたのもつかの間、朝礼の席でこんな売約済み宣言をぶちかましてくださって部長以下、全営業部員の度肝を抜いたのだった。 「私事(わたくしごと)で恐縮だが、おれと早瀬はゆうべ心身ともに結ばれた。就業中に意味深なアイコンタクトを交わしてしまうことがあるかもしれないが、大目に見てほしい」    わが社のマドンナをはじめ、並み居るライバルをさしおいて俺が咲良さんをものにした(実情は真逆なのが切ないったら……)、という噂は光の速さで社内を駆け巡り、悲鳴と怒号が飛び交った。  しかも今夜も咲良さんのお宅に伺うと、豹変ぶりも婀娜(あだ)なあの御方に指切りさせられていたりなんかして。

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