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第46話

 それはさておき俺が狡猾な手段を講じて咲良さんをたぶらかしたと妄信する一派から、さっそく天誅が下された。得意先回りで席を外している間に、俺の机の抽斗(ひきだし)は優に百枚を超えるカミソリの刃でいっぱいになっていたのだ。  さらにBL系の同人誌をやっている女子の同僚に会議室に連行されて、ICレコーダーを手にした萌え軍団に取り囲まれた。  ホワイトボードに列挙された質問事項は、ざっとこんなふうだ。 〝その一。あの、そこはかとなくエロいえくぼにくちづける権利を得た今の心境は?〟。 〝その二。悩ましい雰囲気が漂ったとき、どのタイミングで眼鏡を外してあげる?〟。 〝その三。上から脱がせる派? 下から脱がせる派?〟。  ……ノーコメントを貫くと、 「使えないやつ!」  ぼろくそに罵られたうえに、こづきたい放題にこづかれました。以来、社員食堂のおばちゃんも含めた女子社員から総スカンを食らい、雑巾のしぼり汁がお茶に混入されるのも毎度のこととなり果てて、まさしく針のむしろ。  いいさ、古式ゆかしい不幸の手紙が送られてくるのも高嶺の花を射止めた代償と思えば……。  ところで、ここ最近の俺の心のオアシスは、といえば街中でちらほらと見かける、あれだ。そう、ホワイトデイに焦点を合わせたギフトコーナーなのだ。  なぜなら礼節を(たっと)ぶ咲良さんから、お返しが期待できるから(チン拓であれば家宝にしちゃうのだ)。    閑話休題。良くも悪しくも一生の思い出となったバレンタイン顛末記は、かくして魂の叫びを以てエンディングを迎えるのであった。  ホワイトデイには、必ずや咲良さんを掘り返すぞぉおおおおおおおおお! ……寝技に持ち込んだが最後、たちどころに形勢逆転といき、ベッドという道場においてヒィヒィ啼かされるのがオチだろうか? 一抹の不安が胸をよぎる如月のひとコマなのでした。  以下、リベンジ編につづく……かも?     ──了──

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