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待ちかねた男の気持ち5

『この手が僕のことを、いつも助けていたんだなって。だけどこれからは恭ちゃんがいなくても、ちゃんとひとりで行動しなきゃいけないときに向けて、頑張らないとね……』 「和臣?」 『ずっと一緒にはいられないんだし、当然のことでしょ』  握りしめている和臣の手の力が抜け、榊の手をそっと放した。すり抜けるように離れていく幼馴染みの手を、反射的に急いで掴み寄せる。 「今こうして、一緒にいるじゃないか」  逃げられないように力を入れる榊の手に、されるがままでいた和臣の手のひら。一緒にいるという言葉に反応をして、指先がちょっとだけビクついた。  見下している打ち上げ花火の淡い光が、微妙な表情を浮かべる顔を明るく照らした。 『いつから逆転しちゃったんだろ』 「なに、が?」 『出逢ったときは僕のほうが縦も横も躰が大きかったのに、いつの間にか抜かされちゃったよね。こうして手をつないでいたら、思い出しちゃった。小学生のとき、ふたりで神社に行ったこと』  それは榊にとって恥ずかしい思い出だったが、同時に和臣と一緒だったからこそ成し遂げられた偉業でもある。 「幽霊やドロドロした見えないものにビビってる俺は、いまだにこうして和臣に頼りっぱなしみたいだな」  苦笑いしながら目線の高さまでつないでいる手を掲げたら、和臣の手のひらに力が入って握り返してくれた。 『ふふっ、あのときとおんなじだね』 「神社の裏側から花火大会の打ち上げ花火を見るためだけに、オバケが出るかもとビビった半泣きの俺を強引に引っ張って、神社の境内に連れて行かれたのは思い出すだけでも笑える」  背丈は同じくらいだったが、ぽよよんとした体格の和臣に逆らえず、薄暗い神社の境内に足を踏み入れたときは、言い知れぬ恐怖で躰をガクガクと震わせたんだ。  おばけなんていないのにと、和臣がカラカラ大笑いしながら震える榊を引っ張って神社の裏側に向かったら、他にもたくさんの大人がいて胸を撫で下ろした。ここにいる大人のような振る舞いができる和臣を、すげぇなと尊敬のまなざしで見つめてしまった。 『幼稚園のとき、僕をバカにしていた園児5人に立ち向かった恭ちゃんとは別人だったよね』 「あれは、目に見える相手がそこにいるだからだ。対処の仕様がある」  掲げている手を下ろし、意味なくぶらぶらさせてみる。 『だけどいつからだろうね。気がついたら、僕が恭ちゃんの足を引っ張っていたのは――』  つないだ手をぎゅっと強く握りしめて、唐突に和臣が動きを止めた。湖畔の傍で打ち上げられている花火の音が、やけに耳について離れない。 「足を引っ張ってなんて、そんなの思ったこともない」  町内会レベルの打ち上げ花火が、後半に向けてどんどん大きなものへと変化していった。見下していた花火が、どんどんこちらに近付いてくる。 『最初は、お互いの足りないところを補うように助け合っていたのに、いつの間にか助けられてばかりになっていた。どんくさい自分が悪いのは、分かってるつもりなんだ。そこのところを何とかしようとしているんだけど、なかなかうまくいかないものだよね』  ドーン!!  大きな打ち上げ花火が、目の前で次々と閃光した。赤や黄色、オレンジ色など華やかな色が煌いて明るい色が和臣を照らしたのに、顔色が曇っているせいで切なさだけが浮き彫りになった。  それだけじゃなく大きな破裂音が、ほそぼそと語る言葉をかき消していくみたいに聞こえる。 「和臣、何を気にしてるのか分からないけ――」 『僕は嫌なんだ。このままじゃ嫌なんだよ! ダサい自分が、このまま恭ちゃんの傍にいちゃ駄目だと思うんだ』  叫んだ声に被さるように、ひと際大きな打ち上げ花火がぱっと開いて、瞬く間に消えていく。 (――何かを気にして自分の傍にいられないと言う和臣に、胸の内を伝えたらどうなるのだろうか)  そよ風に乗って散りぢりに舞い落ちていく色とりどりの火花を見ながら、ふとそんなことを考えた。  幼馴染みを超えた関係を求める邪な気持ちを知ったら、気味悪がられて距離をとられる可能性がある。繊細な心を持つ和臣を、深く傷つけてしまうかもしれない。だけど――
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