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第382話

「おい、何してんだ」 「…え?」 しまった、バレた。 二階堂が来る前にこっそり帰ろうと急いで片づけたのに。本当に来るかはわからなかったけれど、なんとなく低い体勢で売り場を離れようとしていたら、目の前に大きな影が現れた。 ブラウンの革靴に黒のパンツ、長い足と思いながら見上げれば、筋肉質な体型がわかる黒い開襟シャツの男。 「…俺、行かへんからな」 「拒否権ねえって言っただろ」 「悠ちゃんが嫌がるもん」 そう言うと二階堂はパンツのポケットからスマホを取りだし、おもむろにどこかへ電話をかけ始めた。その隙に逃げようと思ったが、がしっと腕を強く掴まれて前へ進めない。「繋がんねえな」と呟きながら2、3回発信し直している。 「…お、来た。よお、寝てたか?」 …誰に電話しているんだか。寝起きにこんな人の声を聞くなんて、目覚めも最悪だろう。 「…用件なんだが、お前のとこの咲良、今日家に来るの問題ないな?」 有無を言わせない聞き方。さすが偉そうな二階堂。…って。 「悠ちゃんやないかっ!」 「…咲良、許可おりたぞ」 耳と肩の間に電話をはさんだままこっちに視線だけを寄こす。相変わらず口角が上がっていて、意地の悪そうな顔だ。 「いやいや、何言うてんねん、ちょっと電話貸しいや!」 そうして二階堂からスマホをひったくり、通話中であることを確認する。 「もしもし、悠ちゃん!?」 『…んん…、咲良…?』 めちゃくちゃ寝起きの声だ。あっちは夜中のはずだから寝ていて当然なんだけど。 俺はいつもちゃんと時間を気にして電話しているのに、二階堂の奴はそんなのもお構いなしだ。いくら社長だからって許されることとそうでないことがあるはず。職権乱用で訴えてやろうか。 「悠ちゃん、ホンマに許可したん!?この人んちに行くのっ」 『…んー?あー…うん、まぁ…二階堂さんはだいじょう、ぶ…かな…、』 「ちょ、ホンマのホンマにっ?」 『うん…、……ん…』 ふにゃふにゃ言ってて可愛い…普段は割と冷静で落ち着いているけど、こういう無防備な時は母性本能をくすぐられるような…男だけど………。 …ではなく、こんな寝ぼけた人にちゃんと判断出来る訳がない。 「こんなん無効や無効!俺は帰るからなっ」 「残念だな、悠ははっきり良いと言ったぞ」 「はぁ?何言うて…、ちょっ…わ、やめっ…、わ、わかったわかったっ!行く行く、行きますーっ!」 電話を取り返して通話を切ったと思ったら、俺の胴を両手で掴んで抱き上げられそうになった。閉店後とはいえまだ人がいる中でこんなことされたら恥ずかしすぎる。 選択肢が無くなって、つい行くと言ってしまった。
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