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第3話~過去~

俺、熊谷(はじめ)19歳。 山奥の田舎から、大学進学で駅のある繁華街で一人暮らしを始めた。 ずっと山の中で育ち、爺ちゃんと婆ちゃんに育てられた。 両親は幼い頃に離婚してそれぞれの家庭を持っているので、俺は父方の祖父母に預けられ、何の不自由も無く育ててもらっている。 本当なら、大学には行かずに就職するつもりだったんだけど、爺ちゃんと婆ちゃんが 「(はじめ)は頭が良いんだから、大学に行っとけ」 と言ってくれて、進学を勧めてくれた。 心配していた学費は、どうやら親父から教育費として出させたようだった。 俺の親父はどうやら、どっかの会社のお偉いさんらしい。 何故「らしい」なのかと言うと、物心も付かない幼い頃に離れたきり、一度も会った事が無いからだ。俺は親父に興味は無いし、正直、どうでも良いと思っている。 俺にとっては顔の知らない親父より、爺ちゃんと婆ちゃんが俺の親だと思ってる。 本当は俺が働いて楽させて上げたいのに、2人は俺の就職に対して、決して首を縦には振らなかった。 2人の暮らしも、年金と親父からの援助があるから大丈夫だと言ってはいたけれど……。 爺ちゃんと婆ちゃんと暮らした実家は、田舎だけど大好きな場所だった。 俺は、今、テレビでやってるポツンとなんとかって番組みたいな場所で育った。 昼間は田畑を耕し、夜は眠りに着くという自然と共に暮らして来た。 爺ちゃんは腕利きの狩人で、ジビエの捌き方から血抜き方法まで教わった。 自然と共存するという事を、幼い頃から叩き込まれて生きて来た。 でも俺にとっては、人と暮らすよりも自然と共存している方が楽しかった。 まさに野生児として成長した俺は、小学校に入って人との接し方がわからなかった。 話し相手はずっと爺ちゃんと婆ちゃんだけで、テレビも余り見なかったから、同じ年代の人が怖かった。 そんな状態で小学校に入学すると、早速悪ガキ達に名前の事で揶揄われた。 一の名前が「熊谷ーっ!」に見えるらしく、熊谷ーっ!って揶揄って来たけれど、俺がみんなより図体がデカかったので、直ぐにそんな嫌がらせは消え失せた。 学校の授業でも、野山を駆け回っていた俺にとって、学校の体育なんてどうって事無かった。 勉強は婆ちゃんから 「無知よりも知識があった方がええ」 と言われていたから必死に勉強した。 正直、知らない知識を頭に入れるのは好きだった。 俺の知らない世界があって、そこから無限の世界が広がっているのが楽しくて仕方なかった。 スポーツが出来て成績もそこそことなると、中学生になる頃には女の子が寄って来るようになった。 初めて付き合ったのは、中学2年生の時。 一つ年上の先輩で、キスもSEXも……全部彼女が教えてくれた。 ただ、何故か俺は初めてのSEXで中折れしてしまったのだ。 その後何度か試したけど、結局、勃起すらしなくなってしまい、彼女とは気まずくなってそのまま別れてしまった。 俺はその後、告白されても誰かと付き合ったりするのが怖くなり、拒否し続けた。 初めての彼女での失敗が心の傷になり、誰かに夢中になる事が無くて、俺は高校まで1人を貫き通したんだ。 そんな俺の性癖を自覚させられたのは、高校1年の時だった。 俺は爺ちゃんと婆ちゃんの畑の手伝いがあったので、どんなに勧誘されても部活には入らずに帰宅部を貫いた。 その日も、早めに帰宅する為に裏道を使って帰宅していると、神社の裏口から苦しそうな声が聞こえた。 誰かに虐められているのかもしれない!と思い、そっと近付いて助けようと思った俺の目に飛び込んで来たのは、男の先輩2人のSEXシーンだった。 「あっ……あっ……」 神社の裏側で、壁に手を着いてシャツの前をはだけさせ、胸を弄られながら膝まで制服のパンツを降ろされた先輩が、腰を掴まれてガンガンと腰を打ち付けられていた。 驚いて動けなくなってしまった俺の目を釘付けにしたのは、入れている側の先輩の方では無くて、入れられて喘いでいる先輩の方だった。 気持ち良さそうに頬を紅潮させ 「あっ……もっとぉ……もっと激しく着いてぇ……」 そう叫ぶと、片足を高く抱えられて激しく突き上げられたのだ。 「アァ!快い!……もっとぉ…………」 パンパンと肉同士が当たる音と、湿った水音が響き、硬いモノが出入りするのが見えた。 突き上げられる度、入れられている先輩自身から、先輩の欲望が吐き出されている。 その光景に自分の下半身が熱くなっているのに驚いて、その場を走って逃げ出した。 それまではずっと、性に対して疎いだけだと思っていた俺は、この日、入れられて喘いでいた先輩になって貫かれている夢で、初めて夢精してしまったのだ。 正直、ショックだった。 自分の性癖は異常なんだと……。 知られたら絶対に白い目で見られると、一人悩み隠して生きてきた。 こんな逞しいガタイの俺が、女のように入れられたいだなんて……。 そんな事を知られたら、絶対に笑われる。 この事が原因で、元から人付き合いが苦手な俺は、もっと自分の殻に閉じこもるようになってしまう。 いつしか、誰かに抱かれる事も無く、恋する事も無く俺は一生このままなんだと思って諦めて生きるようになっていた。 そんな俺は、高校を卒業して大学に入学。 生活費の足しにと初めた喫茶店のバイトで、窓際のきみ…高杉様に出会った。 初めて見た時、時が止まったように感じた。 彼が歩くだけで周りの景色が色付くように見えて、俺は一瞬で恋に堕ちた。 接客が出来ない俺は洗い場担当だから、彼に接する事は出来ない。 ただ、洗い場から見える彼の横顔を見るだけで幸せだった。 最初は月に一回程度だった。 スーツ姿で現れて、いかにもエリートっぽい姿でパソコンのキーボードを叩いてた。 キーボードを叩く指が長くて綺麗だな〜とか、時折、指を口元に当てる癖が色っぽいな〜とか思って見ていた。 何か考えながらコーヒーを口元へ持って行った時、ふと俺と目が合った。 その時、全身の血が沸騰したみたいに熱くなった。 ドキドキと心臓が高鳴り、黒目がちの彼の瞳から目が離せなくなる。 縫い止められたように見つめていると、彼は流し目で小さく微笑み視線を戻した。 それから月2回になり、いつしか私服で毎週土曜日に来るようになった。 初めて私服姿を見た時は、鼻血が出るかと思った。 白いシャツに細身のベージ系のパンツ姿。 色気がダダ漏れで、思わず帰る後ろ姿に 「ご馳走様でした」 と拝んでしまった。

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