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第5話~ピンチがチャンス?~

あの日から、俺は高杉様がいらっしゃる時間はわざと裏に入るようになった。 会いたいけど、決定打を言われるよりはまだマシだと言い聞かせる。 裏の倉庫の棚を整理していると 「あれ?熊谷、珍しいな。お前、厨房に居なくて良いのか?」 と声を掛けられた。 振り返ると、フロア担当の鈴木さんが立っている。 「あ!あの、そろそろ棚の整理もしとかないと……」 そう言って誤魔化すと 「ふ~ん。なぁ……お前、あの客が好きなんじゃねぇの?」 と、不意打ちを食らった。 驚いて紙ナプキンの箱を落としてしまう。 「ビンゴか。何?お前、お仲間だったの?」 そう言われて、鈴木さんか近付いて来る。 俺は慌てて箱を拾い、元の位置に戻しながら必死に誤魔化そうとした。 「な……何の話しですか?」 そう言って振り向いた瞬間、鈴木さんの両腕が俺を挟んで棚に閉じ込めた。 「とぼけんなよ……。お前があの美人に熱視線送ってんの、気付かないとでも思ってる訳?おめでたいなぁ~」 喉で笑われて、顔が熱くなる。 「大方、相手にバレて、ここに逃げ込んでるんだろう?」 揶揄うように言われて、視線を下に落とした。 「お前さ……折角良い顔してんだからさ、もっと自信持てば?俺らの溜まり場来れば、お前に抱かれたい奴等がゴロゴロ居るぞ」 そう言われて、俺はギッと鈴木さんを睨み付けた。 「あれ?もしかしてお前、そっちじゃなくて抱かれたいとか?この身体付きで?マジか!」 鈴木さんは驚いた顔をしてから、笑い出した。 分かってた 自分が抱かれたいなんて、そんなのおこがましいって…… でも、分かってても、人に言われると傷付く 悔しくて俯いていると、突然、顎を掴まれて 「抱いて上げても良いぜ。本来なら、小島みたいなタイプが好みだけど……。まぁ、入れちまえば変わらないしな」 下卑た笑いをする鈴木さんを睨むと、鈴木さんは俺の身体を抱き締めて、背中から腰のラインを撫でると 「お前みたいな奴、抱いてくれる奴なんか居ないだろう?俺が可愛がってやるから、せめて喘ぎ声くらいは可愛く鳴いてくれよ」 と耳元で囁かれた。 ゾワリと身の毛がよだち、気付いたら鈴木さんを突き飛ばしていた。 鈴木さんは吹っ飛んで、反対側の壁に背中を打ち付けたらしい。 床に蹲った状態で倒れている。 物音を聞き付けて、店長と友也が飛び込んで来た。 「痛てぇ……」 鈴木さんがそう呻くと 「これは……一体どういう事だ?」 戸惑う店長に 「店長、俺は手伝いに来てやったのに、こいつが余計なお世話だって突き飛ばして来たんです!」 と鈴木さんが叫んだ。 でも、突き飛ばしたのは事情。 俺が黙っていると 「本当に?俺、熊さんが何もしない人にそんな事するとは思えない!」 と、友也が俺の前に立ち塞がった。 「鈴木さん、いつも俺が倉庫の棚を整理していると、俺のケツ触りますよね?熊さんにもやったんじゃないんですか?」 怒った顔をする友也に 「はぁ?こんなガタイ良い男のケツなんか、誰が触るかよ!」 吐き捨てるように鈴木さんが叫んだ。 すると 「それは……倉庫の防犯カメラを見たら分かりますよね」 って、ドアの向こうから逆光を浴びた人物が呟いた。 「はぁ?防犯カメラ?」 鈴木さんが鼻で笑って言うと、ゆっくりと歩きながら 「えぇ……僕がオーナーに助言しました」 そう言って、まさかの高杉さんが中に入って来たのだ。 「え?」 驚いている俺達に、高杉さんはスマホを取り出して 「今、ここでオーナーに電話して、証拠を確認してもらっても構わないけど」 表情1つ変えず、高杉さんが鈴木さんに詰め寄る。 「僕、ここのオーナーの友達なんですよ。店の備品が毎月、ほんの少しだけど無くなるって相談を受けてね。隠しカメラを設置したんだ。まさか……それがセクハラ確認に役立つとは思わなかったけど」 そう呟いた。 鈴木さんはしばらく高杉さんと睨み合い 「クソ!こんな店、今日限り辞めてやる!」 そう叫んで、倉庫を飛び出した。 唖然とする俺と店長に友也。 高杉さんは逃げた鈴木さんの背中を見送りながら 「本当に捨て台詞を吐く人間が、居るんですね……」 と、興味深そうに呟いた。 すると店長が 「すみません!高杉様がオーナーの知り合いなんて……。今回はありがとうございます」 そう言って頭を下げると 「え?嘘ですよ」 と呟いた。 「え?」 驚いて固まる俺達3人。 「テレビドラマじゃあるまいし、そんな都合の良い話、ある訳無いじゃないですか」 にっこり微笑まれて言われる。 「え?じゃあ、隠しカメラは?」 「あ!それは本当ですよ。ほら、あそこにカメラあるでしょう?」 って、高杉さんがカメラを指差した。

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