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第6話

「大体、外に警備会社のシール貼ってあるし、倉庫に防犯カメラは当たり前じゃないですか」 あははははって笑う高杉さんに、俺達3人はもう……開いた口が塞がらない。 「それに僕……、ああいう輩が大嫌いなんですよ」 そう呟いた高杉さんの目は、まるで汚いものを見るような蔑む目でドアの向こうを睨み付けていた。 「あ、勝手に倉庫に入ってすみません。お代を支払おうとしたら、物凄い物音がしてお2人が血相変えて飛び出したので、つい、着いてきちゃいました」 突然、にっこり微笑んでそう言った。 店長が慌てて 「あ……いえ。こちらこそ、罪の無い熊谷を注意する所でした」 そう言うと 「僕、彼の淹れるコーヒーが好きなんですよ。クビにされたら困るので」 と言うと、俺に視線を向けて 「いつも美味しいコーヒー、ありがとうございます」 って、それはそれは綺麗な笑顔を俺に向けてくれたのだ。 その瞬間、俺の頭上に天使がラッパ吹いて紙吹雪散らしながら降ってきた。 『いつも美味しいコーヒー、ありがとう』 『ありがとう』 『ありがとう』 生きてて良かった~! 心の中で、感涙に咽び泣いた。 神様、仏様、高杉様 俺、今日から毎日、人に優しくします! 一日一善目指します! 感激に浸っていると 「熊さん、顔!涎垂らしそうな顔してる!」 友也が小声で耳打ちして来た。 俺が慌てて顔を両手で覆うと 「あの、お代を支払いたいのですが……」 と、高杉様の声が聞こえた。 店長が 「とんでもない!お代なんて頂けませんよ!」 と叫んだ。 「むしろ、何かお礼を……」 そう言いかけた瞬間 「じゃあ……後で彼に、コーヒーを僕の診療所に届けさせて頂けませんか?」 って言い出したのだ。 「はぁ!」×3 俺、店長、友也が思わず叫んだ。 「出前が無いのが残念だったんですよね。ダメですか?」 突然、店長にうるうるした目で高杉様が詰め寄る。 「あ……いや……しかし、営業中は……」 「そうですか……、残念だなぁ~。従業員に、お疲れ様ってコーヒーを振る舞いたかったんだけど……」 「え?ちなみに、何杯分?」 「受付2人とカウンセラー2人に僕だから……5杯分かな?あ!ケーキを着けて貰えるかな?ケーキは4つで構わない。配達用に、タンブラーを5つ頂こうかな?」 にっこり微笑んで言うと 「熊谷君、今日のシフトは?」 と、店長が呟いた。 「え?17時ですけど……」 「わぁ!助かるなぁ~!僕の診療所、18時までなんだ」 俺の声に被せ気味に言われてしまった。 「もし良かったら、毎週届けてくれると助かるんだけど……。あ……勿論、彼の帰りのついでで構わないよ」 うるうるした瞳で店長を見つめ、高杉様が訴えている。 店長はジッと見つめられて 「く……熊谷君はどうかな?」 って、俺に話を振って来た。 俺からしてみたら、そんなのラッキー以外に何も無い! え?これ、ご褒美ですか? もしかして……俺、妄想し過ぎて白昼夢見てる? って、もう、頭の中がパニックだった。 その瞬間、高杉様と目が合った。 黒目がちな瞳に吸い込まれるように 「帰りに寄るくらいなら……」 と、反射的に呟いていた。 すると高杉様はパァっと眩しい笑顔を浮かべて 「じゃあ、これ。その分のお代ね」 っと、店長に1万円渡すと 「お釣りは要らないよ!じゃあ、又後で」 そう言い残し、ヒラヒラと手を振って去って行った。 店長は 「ありがとう!熊谷君。毎週、1万円近い売り上げは助かるよ!」 って叫んだ。 「…………はぁ」 怒涛のような出来事に、俺の頭は許容量を超えてオーバーヒートを起こしていた。 「熊さん、俺も一緒に行こうか?」 心配そうに友也が言ってくれたけど、俺は高杉様の働いている場所が分かるだけでラッキーだった。 診療所って事は、お医者さん? 高杉様の白衣姿…………。 は!いかん、妄想だけで鼻血が出そうだった。 俺はまさか、これがきっかけで美しき悪魔との契約の日々が始まるとは、夢にも思わなかった。

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