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第9話~下僕だけど……~
「こんにちは~」
毎週土曜日。
俺はあの日以来、いつも通りに受付に差し入れを渡す。
「はじめちゃん、いつもありがとう」
笑顔のお姉様方にお辞儀すると
「先生、今、丁度患者さんが切れた所だから……」
と言われて、創さんのタンブラーを渡される。
「あ……はい」
俺は創さんのタンブラーを持ち、診察室のドアを叩く。
「どうぞ」
中から声がして、俺がドアを開けると
「あぁ……、はじめが来る時間か」
そう言って、手を差し出した。
俺が創さんにタンブラーを手渡すと、ポケットから鍵を出して
「飯、作っといて」
と言われた。
あの日以来、俺は何故かほぼ毎日、創さんの家に通っている。
しかも……俺は高杉様を創さんと呼び、創さんは俺を「はじめ」と呼ぶようになった。
ある日、婆ちゃんから大量の野菜が送られて来たので、お裾分けに来て冷蔵庫を開けて絶句した。
食料品が無い!
何を食べているのかを聞いたら、カロリー栄養食かサプリメント。
それ、飯じゃないから!
やたら色が白いと思ったら、飯を食わな過ぎて青白いと判明。
創さんを引き摺り、必要な調味料やら食料品を買わせて飯を作ってあげたら
「……上手い」
と、創さんが喜んだ。
それ以来、餌付け状態になっている。
だから、ほぼ毎日通わなくちゃならないのだ。ただ、平日にバイトがある日は、さすがに通えないので、豚汁を作っておくようにしている。
温めて食べる位はしてくれるので、翌日に来ると鍋はちゃんと空になっている。
まぁ……後片付けは、してないけどね。
俺は鍵を預かり、あの綺麗なリビングの奥にあるキッチンをまず片付ける。
基本的に綺麗好きな人なので、食べた食器は鍋の中に入れて洗剤を溶かした水に浸けておいてはくれている。
少しずつだけど、気持ちを許してくれているんだろうとは思う。
でも所詮、下僕としか思われていない関係が苦しかった。
何故、創さんが俺を傍に置くのか?
どうであれ、一度は自分を襲おうとした人間なのに……。
あれこれ考えてしまうと、ついネガティブになってしまう。
首を横に振ると、俺は無心になって創さんの夕飯の支度をしていた。
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