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第13話

「そうか!お肉もジビエだよね?臭みも無くて、美味かった!」 爺ちゃんと婆ちゃんが一生懸命作った野菜や、爺ちゃんの仕留めたジビエを2人が口々に褒めてくれて嬉しかった。 「あ、ありがとうございます」 照れ臭いけど、嬉しくてお礼を言うと 「こちらこそだよ!今日はそのお礼も兼ねてだから、食べてね」 って、3人に勧められた。 活気あるお店と、3人の気さくな感じが俺の人見知りをいつの間にか突破らってくれていた。 この日から、俺は何故かこの親子?カップル?に気に入られてしまったようだった。 大学の講義が終わり、バイトが無くて帰宅していると 「熊さん、飯、食ってかない?」 って、何故か店から出て来た蓮に声を掛けられるようなる。 なので、俺は創さんの家か蓮の店で飯を食うようになった。 そんなある日、講義が急に休講になり、大学から早めに帰宅していると、大荷物を持ったハルさんを見掛けた。 「ハルさん、荷物持ちますよ」 隣に並んで荷物を1つ掴むと 「あれ?一くん、今帰り?早いね」 ってハルさんが微笑んだ。 相変わらず、色気だだ漏れで心配になる。 蓮が他の奴らに煩いのも、納得してしまう。 「急に休講になって」 「そうなんだ……。あ!ねえ、お昼ご飯、食べて行ってよ!荷物持ちのお礼にね」 「でも……いつも悪いです」 「平気だよ!蓮も喜ぶし」 そう言われて、何故か荷物持ちだけの筈が昼飯にオムライスをご馳走になってしまった。 創さんの家に行く時間になり 「俺、そろそろ……」 と声を掛けると 「これ、良かったら」 って、ハルさんが創さんの分も作ってくれていた。 「え?……でも」 「良いから。一品、作るのが減ると楽でしょう」 そう言われて、お辞儀してタッパーに詰めてくれた温かいチキンライスを手にした。 「卵は食べる直前の方が美味しいから、それは、一くんがやってあげてね」 俺はハルさんのご好意にお辞儀して、創さんの家に向かった。 今や創さんの家の合鍵を頂き、裏口から入るのがすっかり日課になっている。 靴を脱いでスリッパに履き替え、階段を駆け上がる。 相変わらず生活感の無い空間に足を踏み入れ、前日の豚汁が完食されているのを確認。 豚汁と一言で言うが、入れる具材は毎回思考を凝らしている。 今日はじゃがいも入りかな? と考えながら調理をして、診察が終わる時間を見計らってオムライスをチンする間にプレーンオムレツを作る。 温まったチキンライスの上にオムレツを乗せて、オムレツの真ん中に切れ込みを入れた。 とろっとろの卵が溢れ出て来て、教えてくれた蓮に感謝。 自分の卵の仕上がりに満足していると、創さんが丁度入って来た。 「あ、今、丁度、出来上がりました」 笑顔で迎えると、創さんはオムライスを見て俺の顔を見上げた。 「これ、お前が?」 そう言われて 「とろっとろに出来たんで、食べてみて下さい!」 俺の顔を見た後、創さんは無言でオムライスを口に運んだ。 ドキドキしながら見ていると、創さんはスプーンを投げたのだ。 「え?」 驚く俺に 「これ…お前が作ったんじゃないだろう?」 ぽつりと言われて 「上の卵は俺です!」 と言うと、オムライスの皿を掴んでゴミ箱へ棄てようとしたのだ。 慌てて皿を奪うと 「僕はお前が作ったご飯が食べたいと言ったのに、何故、他人の作った飯を食わされなくちゃならないんだ?」 と激怒する創さんに 「それでも……、上の卵は俺が作ったし!それに……折角、ハルさんが作ってくれたのに……」 悲しかった。 ハルさんの飯は優しい味がして、食べてくれる人を笑顔にしたいって気持ちが溢れてて…。 だから俺は、創さんにも食べて欲しかった。 食べる事に興味が無い創さんに、気持ちのこもった料理を食べて欲しかった。 「酷いです……」 ぽつりと呟いた俺に、創さんが視線だけを向けると 「ハルさん?あぁ、あの商店街にある喫茶店の美人さんか。何?お前、今度はあっちに鞍替えしたの?」 と、鼻でバカにしたように言われた。 「……そんなんじゃないです」 絞り出した声に 「お前みたいな野獣は、お優しそうなああいうタイプに騙されるんだよな」 酷い言葉を投げ付けられて、俺は創さんを睨み付けた。 「何?その態度。お前、僕の下僕って分かってる?」 冷めた視線で言われて、俺は両手を握り締める。 少しは心を開いてくれているって……思ってた。 どんなに我儘言っても、人を悪く言わない人だと信じてた。 俺は無言でオムライスをタッパーに戻し、食器を洗って帰り支度を始めた。 すると 「……なんだよ。楽しそうに、買い物なんかしやがって!野獣の癖に生意気なんだよ!僕がダメなら、あの美人に抱いてもらうのか?色気だだ漏れの、お手軽そうな奴だもんな!」 創さんが俺の背中にそうさけんだ。 『ガン!』 俺は腹が立って、創さんの家の壁を思い切り殴った。 ミシッて音が鳴って、創さんが身体を震わせた。 「俺の事は何とでも言えば良い!でも、ハルさんを馬鹿にするのは許さない!」 睨み付けた俺に、創さんが悲しそうに笑った。 そう……怒るでも無く、罵倒するでも無くて……笑ったんだ。 俺が驚いて創さんの顔を見ると 「……け」 と、小さく呟いた。 聞き取れなくて、1歩前へ踏み出そうとした瞬間 「出て行け!二度とお前の顔なんか見たくない!」 と創さんが叫んだ。 俺はカチンと来て、部屋から飛び出してそのまま階段を駆け下り、創さんの家を飛び出した。

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