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第14話~創さんの秘密~

あの日から1週間が経過した。 「はぁ……」 バイト先の食器を片付けながら、又、溜め息が出た。 自分の言った言葉に後悔はないけど……、あの悲しそうな笑顔が頭から離れない。 「はぁ……」 再び溜め息を吐いた瞬間 「熊さん、何かあった?」 友也が声を掛けて来た。 「最近、経路変えただろう?ハルちゃんと蓮が、熊さんを見掛けなくなったって心配してたよ」 そう言われて俯く。 俺と一緒に居たせいで、ハルさんがあんな風に言われてしまったのが申し訳無くて、顔が合わせ辛くて経路を変えてしまったのだ。 「何があったのかは知らないけど、あの2人なら大丈夫だからさ。避けないで上げて!」 と友也は呟くと、俺の背中を軽く叩いた。 俺が友也に笑い返したその時、スマホの着信音が鳴り出した。 ぼんやりしていて、うっかり作業着のポケットに入れてしまったらしい。 「熊さん!スマホ、ヤバいよ」 友也に言われて切ろうとして、着信が創さんだった。 俺は嫌な予感がして、慌てて外に飛び出して着信に出た。 「……けて、はじめ……助けて……!」 通話は直ぐに切られてしまい、悪戯かもしれない。……そう考えたけど、身体が勝手に走り出していた。 「熊さん!どこ行くの!」 友也の声にも振り向かず、俺はロッカーから創さんの家の鍵を掴んで走り出した。 裏口に周り、玄関のドアは施錠されていた。 逸る気持ちを抑えて、鍵を開けて階段を駆け登る。 すると、リビングの階の上から物音が聞こえた。 走って上の階に行くと、2人の男に両手両足を塞がれてベッドに押さえ付けられている創さんの姿が見えた。 「お前等!創さんから離れろ!」 俺が叫ぶと、驚いた顔をして男2人が俺を見た。2人に殴り掛かろうとした俺に 「手を出したらダメだ!」 創さんが叫んだ。 するとそいつ等は創さんの手を離し 「さすが阿婆擦れの子供だな!もう、男が居るのかよ!」 と呟き、俺と擦れ違い座間に 「創は具合が良いだろう?俺達が小さな頃から開発してやったんだ。感謝しろよ!」 と、2人組の1人が呟いた。 カッとなった俺に 「構うな!……全部、事実だ」 強引に破かれてはだけたシャツの前を押さえ、創さんはそう言って身体を起こした。 「今日は邪魔が入ったけど、又な創」 「可愛い弟の面倒を、又見に来て上げるからね」 2人は馬鹿にしたように言うと、階段を下りて行った。 「何で黙ってるんですか!」 2人が去った後、俺が叫ぶと 「言っただろう?事実だからだよ」 創さんはそう言って、身体を小さくするように膝を抱えて座っている。 俺が近付くと、怯えた視線で俺を見上げた。 「怯えなくて大丈夫ですよ。忘れたんですか?俺はあなたに抱かれたいんですから」 そう言って、そっと創さんの身体に毛布を巻き付けた。 いつも毅然としている創さんの身体が、小刻みに震えている。 ゆっくりと抱き締めると、創さんは抵抗するかと思いきや、大人しく俺に抱き締められていた。 「あの2人は……兄なんだ」 ぽつりと言われ、俺は驚愕した。 「……とはいえ、僕とは片親しか血が繋がって無い。僕は父親が外に作った子供なんだ」 そう言うと 「僕の母親は、僕を産んで間も無く亡くなったらしくてね。僕には母親といえば、冷たい愛情の欠片も無い本妻だった。何をしても、どんなに頑張っても愛しては貰えなくてね。兄2人が羨ましかった。そんな兄2人から、母さんに愛されたいなら、俺達の言う通りにしろと言われてね。小学校上がる頃からかな?2人に身体を弄ばれるようになった」 まるで思い出話をするかのように、淡々と創さんが話し出した。 「それでも、兄2人には愛されているのだと……。可愛がられているのだと、信じていた。母親も、兄に抱かれていれば優しかった。だけど、中学3年の夏だったかな?あの日は暑くてね……。2人に抱かれた夜、喉が乾いて水を飲みに行こうとしてね。母親と兄達の会話を聞いてしまったんだ。僕を幾ら抱いても妊娠しないから、正式な婚約者が決まるまでの性処理の相手だと。そして僕自身も、もう女性を抱ける身体じゃないから、これ以上、財産を脅かす子種が増えなくて済むって……。」 内容が重いのに、何て話を他人事のように話すんだろうと思った。 「はじめ……ごめん。僕はきみを抱けないんだ」 ぽつりと言われて、俺は創さんの顔を見下ろした。 創さんの瞳は遠くを見ていて 「僕は中学3年の夏から……ED、つまり勃起不全でね。しかも不感症になってしまったんだ」 そう呟いた。 俺は創さんの身体を抱き締めて 「そんなの……どうでも良いです。俺は、創さんと居られたら……」 と呟くと、創さんは 「嘘言うなよ!お前、もう僕なんかどうでも良いんだろう?あの喫茶店の兄ちゃんに心変わりしたくせに!」 そう叫んだ。 「……?喫茶店?あぁ、ハルさん?」 「はぁ?名前なんか知らないよ!仲良く買い物袋を並んで持ちやがって!」 怒り出した創さんに 「え?ハルさん、恋人居ますよ」 と言うと 「それでも、お前は好きなんだろう!」 って、まだ怒ってる。 「……まぁ、好きですけど。優しいし、綺麗だし、何よりコーヒーが美味い」 そう答えると、創さんは俺の両頬を引っ張り 「だったらそっちに行けば良いだろう!」 と呟いた。 俺が頬を引っ張る創さんの手に触れると 「行きませんよ。俺が惚れてるのは、創さんだけなんですから」 そう答えると、創さんは「ボン」って音を立てたんじゃないか?って位に真っ赤になった。 「ば……馬鹿じゃないのか!誰もそんな事、聞いて無い!」 そう叫んだ創さんの唇に、俺はそっと唇を重ねた。 「お……お前……!」 益々茹でダコみたいな顔をする創さんに 「あなたが鈍感で、すぐに勘違いする人だって分かりました。だから、これから時間を掛けて、俺がどれだけ高杉創を愛しているのかを骨の髄まで解らせます!」 そう言って抱き締めた。 「お前、聞いてたのか?僕はお前を抱けないんだぞ」 「創さん。SEXだけが、愛情を測るバロメーターじゃないんですよ!」 強く抱き締めて言った俺に、創さんは頬を赤らめながら 「だったら、さっきから僕の腰に当たるモノを鎮ろよ!お前の発言、嘘臭いんだよ!」 って叫んだ。 「これは……ほら、好きな人が俺を好きって分かったら……普通こうなりますよね?」 「はぁ?僕がいつ、お前を好きだなんて言ったんだよ!」 真っ赤な顔をして暴れる創さんの身体を、俺は強く抱き締めた。 「創さん……」 暴れる創さんの名前を呼ぶと、創さんが恥ずかしそうに俺を見上げた後、ゆっくりと瞳を閉じた。 俺はそっと顎に手を添えて、愛おしい人の唇にキスを落とした。 俺はこの日、綺麗で意地っ張りな天邪鬼の恋人を手に入れた。

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