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第15話~距離感~

「えーー!」 「しっーーっ!声でかい!」 その日、バイトを抜け出した俺は、クビ覚悟で戻ると、店長は心配そうな顔で 「お父さん、倒れたんだってな」 と言って来た。 「?」 と思って居ると、友也が遠くからピースサインしていた。 どうやら、親父が倒れて慌てて飛び出したという事にしといてくれたらしい。 持つべきものは友だな……と、俺は休憩時間が一緒になったので、友也に缶ジュースを奢った。 「で?何がどうしたの?」 と聞かれ、まぁ……詳細は話さなかったが、創さんがピンチで、助けたら付き合う事になったと話したら、冒頭の叫びをされた。 「創さんって……あの、高杉創さんだよね?」 小声で聞かれて頷くと 「意外!だってあの人、3つ先の駅近にある高杉総合病院の御曹司でしょう?」 と言われた。 「あ……、だから高杉!」 俺が呟くと 「大丈夫?まぁ、こっちの高杉様の悪い噂は聞かないけど、兄貴2人は評判悪いよ~」 と、友也が呟いた。 あの日に会った2人を思い出し、だろうな……と頷ける。 高慢で、プライドばかりが高い感じがした。 あんな奴等に囲まれて育って来た創さんが、なんだか切ない。 あの人はきっと「可哀想」とか憐れまれるのは嫌いだろうし、必死に生きて来た人に対してそれは失礼だと思う。 だからせめて、俺といる時は笑っていて欲しいと願う。 とはいえ、普段からあまり笑うタイプでは無いのだけど……。 「でも、幸せなら良かった」 微笑んだ友也に、俺は鼻の頭をかいた。 「幸せか?」と聞かれてたら、きっと幸せなんだろう。 今まで、誰かを好きになる事が無かった。 こんなに愛おしいとか、大切にしたいとか思える相手に出会える事は、奇跡に近いんじゃないかと思う。 しかもその相手から思いを返してもらえるなんて、宝くじが当選するより確率は低い気がする。 俺で良いのか?とか、俺で護れるのか?とか。 今はそういうのを抜きにして、傍に居られる事に感謝しなくちゃいけないと思っている。 「じゃあさ!今度ハルちゃんのお店に、俺らと熊さん。高杉様で行こうよ!」 と言い出した。 「え?何で?」 「何で?って……、心配してたからさ」 そう言われて、あの人が素直に行くとは思えないけどなぁ~。 「創さんの気持ちを聞いてからでも良いか?」 と言うと、友也は 「勿論」 そう言うと、ニヤニヤして 「大事にしてるねぇ~」 って呟いた。 俺は真っ赤になりながら、友也の頭を拳でグリグリした。 「痛い!痛い!ギブ、ギブ」 俺の手を叩き友也が叫ぶ。 俺はずっと友達というものを作らずに来たので、今、初めて友達って良いなぁ~と噛み締めていた。

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