24 / 44

第24話

「はじめのご家族は、なんでも出来るんだな」 関心したように建物を見る創さんに、座布団を出して座ってもらう。 田舎の建物に洗礼された創さんがなんとも不似合いで、自分とは不釣り合いだと言われているようで苦しくなった。 すると創さんが突然俺の顔を覗き込み 「また、余計な事を考えてるんじゃないだろうな?」 って、目を座らせて俺の顔を見ている。 俺は慌てて笑顔を作り 「あ…みんなは元気ですか?」 と訊くと 「うん。クリニックのみんなは、はじめが急に居なくなって寂しがってるよ」 そう言いながら、お茶を淹れている俺の顔を見つめて 「ハルさんや蓮君、友也君も心配していたよ。今日、はじめの所へ行くと話たら、落ち着いたらで良いから、一度顔見せに来て欲しいって言ってたよ」 と続けた。 「そうですか……」 話を聞いて会いたいと思う反面、創さんが仲良くやってくれているんだと感じて少し寂しかった。 「蓮君が……」 そう呟き掛けて、創さんが突然黙ってしまうので顔を見ると 「はじめが玄関の鍵を変えてくれたから、兄達が押しかけてきた時に中に入れなくてね。クリニック側から入って来たんだ。それで…うちのスタッフが蓮君に連絡してくれてね」 小さく微笑んでそう続けた。 「はじめが消えた後、一度だけ蓮君が無料でコーヒーを届けに来てくれたんだ。その時に、スタッフに連絡先を教えておいたみたいなんだ」 創さんはぽつりぽつりと話しながら、俺のいれたお茶の入った湯飲みを両手で包んで見つめていた。 俺が黙って創さんの話を聞いていると 「ハルさんや友也君も…、凄く良くしてくれて…。夕飯に誘ってくれたり、なんだかんだと気に掛けてくれてね…」 そう言うと、創さんはゆっくりと顔を上げて 「でも僕は…優しくされればされる程、もう2度とはじめが帰って来ないんじゃないかと思えて不安になったんだ。酷い奴だよね」 と言って力無く笑った。 「月日が経つにつれて、その不安がどんどん大きくなって…。友也君に無理言って、はじめの家の住所を教えてもらったんだ」 創さんの言葉に、俺が創さんに振られてしまうんじゃないかと怯えてグダグダ悩んでいる間に、こんなにも創さんを不安にさせていただんだと思い知らされた。 「今日、此処に来たのは…ちゃんとお前と話がしたかったからなんだ」 そう言われて、とうとう切り捨てられるんだと覚悟を決めた。 例え2ヶ月とはいえ、連絡を一回入れたきり不義理していた俺には何も言い返せない。 膝の上に乗せた手を握り締めると 「はじめ…。もう、こっちには戻れないんだよな?」 諭すように優しく訊かれ、俺は俯いたまま頷いた。 創さんにはクリニックがある。 俺は、退院したとしても足が悪くなった爺ちゃんと、年老いた婆ちゃんを残して大学へは戻れない。 そうなったら、別れるしかないのは分かっていた。でも、別れたくなかった。 例え俺の片思いだったとしても、いつかはそばに戻りたいと願ってしまう。 そう思っていると 「まぁ…、お前が毎朝下まで送ってくれれば良いし…。此処から通えなくも無いか」 と、創さんが呟いた。 「え!」 驚いて創さんの顔を見ると 「なんだよ!別れるつもりだったのか?」 と悲しそうな顔をして言うと 「…とは言っても、きちんと付き合ってなかったな」 そう言って創さんは俺にきちんと向き合い 「はじめ。僕達、きちんと恋人にならないか?」 と言い出したのだ。

ともだちにシェアしよう!