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第27話

『パチパチ』と音を立てて薪の火が燃えている。 『ガラリ』と浴室のドアが開く音に、心臓が跳ね上がる。 お湯を掛ける音の後に、身体を洗う音が響いてやけに生々しい。 火の番をしていなくちゃいけないから、ドキドキと高鳴る心臓の音と格闘している。 しばらくして、湯船からお湯が溢れる音に変わると 「はじめ?」 って、創さんが俺の名前を呼んだ。 『ドクリ』と心臓が鳴り響き、ドッドッドッと鼓動が早まる。 邪念を払おうと夜空を見上げた瞬間、窓が開いて創さんが顔を出した。 「うわ!」 驚いて尻もちをつくと、創さんが呆れた顔で窓から俺を見下ろしている。 「居るんじゃないか……。返事くらいしろよ」 窓から肩まで出した創さんの髪の毛が濡れていて、そういえば創さんの濡れ髪を初めて見たなぁ~って思って見上げていた。 「静かだな……」 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、創さんはそう呟くと空を見上げた。 俺は視線を火に戻すと 「お湯、熱くないですか?」 そう呟いて、薪を火の中へと放り込む。 「大丈夫だ。薪で沸かしたお風呂なんて、初めて入ったよ。お湯が、柔らかい気がする」 俺に視線を向ける創さんから、ぎこちなく視線を反らす。 「空……」 視線を炎に向けている俺に、創さんがポツリと呟いた。 「真っ黒なんだな」 創さんの言葉に、俺も空を見上げた。 「満天の星空とか……テレビや本でしか見た事が無いんだ」 創さんの言葉に 「じゃあ、後で一緒に見に行きましょう」 と呟くと、創さんは目を見開いて 「見られるのか!」 って、身を乗り出した。 創さんの上半身を見てしまい 「わぁ~!創さん!身を乗り出さないで下さい!危ないですよ!」 って叫んだ。 「そんなに見たいなら、連れて行きますから!とにかく、肩までお湯に浸かって下さい!風邪引きますよ!」 慌てて叫んで、創さんを浴室に押し戻す。 すると創さんは口をへの字にして 「別にはじめになら、見られても良いのに……」 そう言って、ブクブクとお湯に息を吐きながら湯船の中に沈んで行った。 俺は熱くなった顔を手で扇ぎながら 「俺に襲われても……知りませんよ」 ポツリと呟いて、薪を1つ炎の中に放り込む。 「襲うって……はじめが?僕に突っ込まれたいのに?」 露骨な発言に、思わず唾液を器官に入れてしまいむせてしまう。 「突っ込まれたいって……、創さん!言い方!」 慌てて叫んだ俺に、ザバッと創さんがお湯から上がる音が響いた。 「はじめ、ありがとう。良いお湯だったよ」 そう言って、創さんは浴室を後にした。 創さんの気配が無くなった浴室に、俺はホッとして溜め息を吐いた。 創さんは「恋人になろう」と言ってくれたけど、本当に俺なんかで良いのだろうか? 浴室から乗り出した身体は、薄紅色をしていて妙に色っぽかったなぁ~。 なんて思い出していると、はじめちゃんが元気になってしまう。 (ヤバい!) 慌てて前のめりになっていると 「はじめ、お前も次に入ったら?」 って、ばあちゃんが現れた。 「わぁ!!」 びっくりして仰け反ると、ばあちゃんはニヤニヤして 「はじめ……創の後だからって、風呂場でいかがわしい事はしないようにな」 そう言うと、「若いって良いね~」なんて言いながら高笑いして去って行った。 ……どこまでが冗談で、どこまでが本気か分からなくてドギマギしてしまう。

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