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第43話

「僕さ……あの兄貴達から逃げ出したくて、地域医療に行くつもりで準備していたんだ」 遠い目をして、創さんがゆっくりと話し出した。 「研修医を終えて、父親の総合病院には行きたく無くてね。そうしたら裏で邪魔されてしまってね。せめて父親の総合病院には無い心療内科の医師を選択して、他の病院に何とか逃げ出した。それでも、新しく心療内科を作るから戻れと邪魔されてね……」 綺麗な創さんの瞳が翳り 「何をしてもあの兄貴達から逃げられないんだと絶望していた時、重い気持ちをなんとかしたくてあのお店に入ったんだ」 そう呟いた。 そしてゆっくりと視線を落とし 「本を読んでも頭に入らなくてね。帰宅したくなくて、なんとなく時間を潰してたんだ……。いつしか半分以上残ってるコーヒーも冷めきって……。やけにコーヒーの苦さを感じた時だった」 そう言うと、ゆっくりと俺に視線を向けて 「はじめが声を掛けてくれたんだ。『コーヒーのお代わりはいかがですか?』って」 と呟いた。 俺が目を見開き創さんの顔を見つめると 「カップにはまだ半分以上コーヒーが残っていたから、どうせ冷たいコーヒーの中に温かいコーヒーを注ぐんだと思っていたんだ。そうしたら、はじめは僕のカップを一度下げて温かいカップに新しくコーヒーを入れ直してくれた」 そう言って微笑んだ。 「あの時、灰色で冷たい世界から、はじめが温かくて色鮮やかな世界へと連れ出してくれたんだ」 創さんの言葉に、俺は慌てて 「そんな!」 って首を横に振る。 すると創さんは優しく微笑んで 「入れ直してくれたコーヒーは温かくて香り高く、優しい味がしたよ。僕はあの日、はじめに恋をしたんだ」 そう呟いたのだ。 「でも…はじめはあの日以降、姿を消してしまっただろう?もしかしたら、又会えるんじゃないか?って、あの店の近くに診療所を作ったんだ」 創さんの信じられない言葉に呆然とした。 「……でも、僕の身体はポンコツになっていたから。知られたら嫌われると思っていたんだ」 ポツリポツリと語られる創さんの言葉に、腰の痛みやらなんやらを堪えて起き上がって抱き締めた。 「はじめ!身体、辛いんだろう?」 驚く創さんを強く抱き締めた。

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