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第14話 二度目のヒート・2

デマかもしれないけどと付け足し、高斗は続けた。 「今回のヒート中は俺、家にいるけど、お前は何もしなくていい。飯は俺が…って言いたいとこだけど、残念ながら目玉焼きぐらいしか作れないから、デリバリーを頼もうと思ってる。掃除とか洗濯とかは普通に俺がするし」 「そんな……それじゃ僕は完全に開店休業状態じゃないですか」 「ああ。開店休業しててくれ」 当然のように言うと、千早は唖然とした様子で尚も反論しようとしたが、それを遮るように、高斗は言った。 「……それから、来週は毎日って訳には行かないけど基本リモートワークにするつもりだから、昼間も家にいるし、付きそうよ」 「そんな、病気じゃないんですからそこまでして頂かなくても大丈夫です。容体が急変する訳でもないし……本当に、余裕なくて、ひどい状態ですしあなたの手にも負えないです」 だから一人で平気だと言い張る千早に、高斗はスマホのサイトを見せながら言った。 「αが側についてて抱きしめたりキスしたりすると、大分和らぐんだってさ。一番効くのはセックス。デマかもしれないけど千早、前の時、俺のベッドで俺の服集めて〝巣作り〟してただろ。あれってやっぱり、αの俺を求めてたんじゃないのか?」 「……っ」 千早の瞳が激しく動揺に揺れ、頬がみるみる赤くなっていく。 「ち、ちが……」 「違うのか? じゃあなんであんなことしてたんだ?」 「…………」 千早は動揺し、何か言い訳をしようとして言えない、という顔を繰り返した。その取り乱し様を見るとさすがにかわいそうになる。 追い詰め過ぎたと反省し、高斗はティーカップを手に、続きを話した。 「まあとにかく、それで苦しさが和らぐなら、抑制剤も飲まなくていいし体に負担もかからないだろ?」 「ダメですよ。つきっきりなんて……あなたの負担が大きすぎます。お仕事だってあるのに…………それに、他にもヒートに苦しんでるΩの人はいるじゃないですか。昨日の人だってヒート中でしたし」 高斗は紅茶のカップを置くと、無意識に冷ややかな声で言った。 「それが?」 「それがって……だから、僕にだけそんなに構わなくて結構ですから」 「……俺、αだからって他のΩのヒート全部に付き添ってセックスしないといけないのか? 慈善事業じゃないんだぞ。そんなことしたら身が持たない」 「……でも、だったら」 「こんなこと、誰に対しても出来ると思うか?」 「?」 「そんなこと無理だ。基本的に誰に対してもLINE返すのもめんどくさいぐらいなんだ。だから……」 千早だけが特別だよ。 そう言った瞬間、千早がハッとしたような顔をして、皿を片付ける手を止めた。 ふらつきながら、どさっと椅子に座り込むと上気した頬と潤んだ瞳で高斗を見つめる。その瞬間、高斗もまた不意にぐらりと眩暈と興奮を覚えた。 ──来た 二回目のヒートだ。 高斗はもう前回の時のように取り乱さずに、むしろ口元だけで微かに笑った。 「あ、あ……ごめ、なさ……こん、な急に……」 「倒れると危ないからあっち行こう」 ソファに連れていこうと膝裏に手を入れて抱えあげると、密着した身体にどうしようもなく興奮して、高斗は息を荒げた。 一緒にソファの上に倒れ込むように座ると、高斗は千早が着ている半袖シャツのボタンをいくつか外した。 薄い胸は激しく上下していて、随分と息が上がっている。 「すごいな。もうこことか固くなってる」 ピンと勃ちあがった胸の突起を指先でゆっくりとなぞると、千早はビクンと大きく体を震わせた。 「た、高、斗さ……っ」 「千早。苦しい?」 「く、くる、しい……っ」 「かわいそうに。今楽にしてやるからな」 高斗は優しく話しかけながら少しずつ千早の服を脱がして行き、もう片方の手で焦らすような緩やかな愛撫を繰り返した。 毎晩のように交わい、彼の弱点は全て把握している。 「ら、め…っ、今、触られ、たら……っ、ひっ、ぁ……ううっ」 千早はまだなんとか持ちこたえている理性で必死に声を押さえているが、目は蕩けて焦点が合わず、形のいい唇もだらしなく開かれて、いつも以上に、気の毒になるほど敏感になっている。 高斗は落ち着かせるようにその髪を撫でながら彼の真っ赤になっている耳元に唇を寄せてひどく意地悪く、だが優しい声で囁いた。 「どうする? もし他に抱いて欲しい相手がいるなら、代わりに呼んでやるけど?」 「……?」 「寝室使っていいからさ。お前を抱いてる相手がどんな奴か知りたいし」 「な、に……言って………」 生理的な涙にぬれた千早の瞳は部屋の光を映したまま、動揺に激しく揺れた。 高斗は髪を撫でたまま、「それとも」と続けた。 「俺で良かったら、今すぐ楽にしてやれるけど」 「高、斗さん……っ、おね、が……っ」 「俺でいいのか?」 千早は必死にコクコクと頷き、「高斗さんが良い」と繰り返した。その時、ヒートで苦しむ彼を追い詰めてそう言わせたほんの少しの罪悪感と同時に、必死で自分だけを求める声に圧倒的な高揚感と充足感を覚えた。 高斗は千早をきつく抱きしめると、ヒートする体を持て余し、悶えている千早の耳元で、もう一度念押しするように囁いた。 「分かった。助けてやる。どんなことでもしてやるよ。その代わり、ヒートの間は、俺のことだけ考えてくれ。……今からお前を助けてやれるのは、俺だけだから」

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