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第14話 二度目のヒート・3

それからは、退廃としか言いようのないぐらいひどい生活だった。 特に金曜の夜中から土日にかけてはほとんどずっと裸のまま、ひたすらセックスして、互いに尽きることのない欲望を吐き出し切っていた。 最初のうちは寝室に籠っていたが、バスルームと行き来の我慢が出来なくなり、結局リビングで昼夜関係なくセックスしていた。 千早のヒートは前回と同様に重く、常に発情しっぱなしだった。 ネットに書いてあることが本当だったかは分からないが、セックスを繰り返すと、しばらくの間は落ち着きを見せた。 今が何曜日の何時なのか。 曜日も時間の感覚もなくなってきたが、外の明るさと朧気な記憶から、日曜日の夕方と言ったところだろう。 性も根も尽き果てたというような様子の千早は、指一本動かすのも辛いという様子で横たわっている。 彼の体は顔から腹、太ももまで高斗の放った体液でまみれていて、さすがにそのままにしておけず、高斗は温かいタオルを絞って体を拭いてやった。 顔の横に飛んでいたそれを拭き取ると、長い睫毛を震わせて千早が瞬きした。 「ん……あ、すみ、ませ」 「いいから。少し寝てろ。後で風呂に入れてやるから」 「でも、高斗さんも、疲れてるのに」 申し訳なさそうに言う千早に、高斗は少し意地悪い笑みを浮かべた。 「ほんと、随分絞りとってくれたよな。……五人分ぐらい出した気がする。さすがに俺の方は空っぽだ。ほら見ろよこれ。どうやってゴミに出す?」 ソファ脇のゴミ箱に口を縛ったゴムが山のようになっているのを指さすと、千早はカアッと顔を赤くして、高斗の顔にクッションを押し付け、少し不貞腐れたような声で言った。 「……こんなことに付き合わせて、申し訳ないとは思ってますけど」 「拗ねるな。こっちが付き合ってもらってんだぞ。ちなみに、金曜日に買い物行ったとき、ゴム10ダース買って来たから、まだまだ付き合える」 じゅ…と、千早は絶句した。 「買う物があるって言ってたのって、まさかそれですか?」 「ああ。あの日はもう、千早とヤりまくることしか考えてなかった」 そう言って耳朶を軽く噛むと、千早はゾクッと背筋を震わせた。 同時にまた、彼の首元から独特の甘い匂いが漂うようになり、薄い胸がせわしなく上下して、息が上がっていく。 「ま、待て。さすがに今はちょっと休憩」 「僕だって、もう無理なのに……っ、あなたが、へんなこと、言うから……っ」 ひどい、と涙を滲ませる。 普段の凛として落ち着いた千早とは思えない幼い表情。 ヒート中のΩは情緒が不安定になるというのは本当なのだろう。 「こうすると、落ち着くって書いてあったけど、どうだ?」 抱きしめて背中を撫でると、千早は遠慮がちに高斗の背に手を回し、深く息を吐いた。 「なんか……落ち着くっていうか……」 「うん?」 「すごく、しあわせ……」 気持ちが不安定になっているせいだろう。 涙声でそう囁かれると、高斗は不意に瞼が熱を持つのを感じた。 「うん、俺も……」 千早の体温はいつもひんやりしているが、今はとても熱く、その体温が心地いい。 互いの体温を貪るように長いこと抱き合っていると、激しく音を立てていた千早の鼓動が落ち着いてきて、随分楽になったようだ。 「……少し落ち着いてるなら今のうちになんか食うか?」 千早はまだぼんやりした顔のまま首を振った。 「ぼくは……いいです」 「でも、そろそろ何か腹に入れないと。俺はなんだかんだデリバリーで食ってるけど、千早はマジで何も食ってないだろ? なんでもいいから、食えそうなもんないか? 買ってきてやるから」 すると千早はちらりと高斗を上目遣いに見た。 「アイス……たべたいです」 「バニラ?」 ゆるゆると、彼は首を横に振った。 「チョコかかってる、コーンのやつがいい……」 その子供のような表情に高斗は言葉に出来ないような愛おしさを感じて笑った。 食事を作るときはいつも高斗の好みと栄養バランスをよく考えていて、自分の考えやしたい事を後回しにしがちな千早が、こんな風に本能のままワガママを言って甘えるのは珍しい。 今彼はそれだけ弱っていて、高斗だけを頼りにしている。 歪んでいると思うが、そのことがとても嬉しかった。 ヒートが終わって正気に戻ったら彼はひどく恥じて後悔するだろうし、ヒートになる前に散々「見せたくない」と言っていた姿だろう。 その姿を、高斗は今後一生忘れない記憶として焼き付けた。 「はは、了解。コンビニ行ってくるからちょっと待ってろ」 「すぐ、帰ってきてくださいね」 「はいはい」 なかなか抱き着いたまま腕を離してくれないのを鋼の意思でなんとかソファから抜け出しした。 夕闇の中コンビニへと走った時の夏の蒸し暑さと、幸せな気怠さを、今でも時折妙に生々しく思い出してしまう。

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