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二十話 カラオケ

「仕事辞めてんのにビジネスグッズとかないでしょ。料理趣味で店までやろうってんだから、調理器具とか便利調理器とかで良いじゃん」  という赤澤の一言で、プレゼントはあっさり最新の便利調理グッズになった。芳明と俺で売場を回った時間はなんだったのだろうか。 「思ったより早く決まったな」 「この後どうする? 晩飯には早いけど」  飯を食うには早いが、せっかく赤澤も合流したのだし、今日は一緒にと行きたいところだ。俺は少し考えて、 「じゃあカラオケとか?」  と提案したが、赤澤に嫌な顔をされてしまった。 「却下。やだよ音痴なんだもん」 「ハッキリ言うなよ……」  傷つくぞ。良いじゃないか。歌うの好きだし、ストレス溜まってるのに。  とは言え、他に案もなく、赤澤は渋々ながらカラオケに行くことで同意した。    ◆   ◆   ◆ 「はー、一人は音痴でもう一人はシャンソン縛りって何の罰ゲームなの?」 「お前だってアニソンとゲームの曲ばっかだろうが」  文句を言いながらウーロン茶を啜る赤澤に、マイクを置いて唇を尖らせる。確かに、芳明の選曲はかなり微妙だ。歌は上手いのだが。  ようするにカラオケに行くようなメンツではなかったようだ。 「そう言えば用事は無事に済んだの?」 「おー。実家に置いてきてたフラッシュメモリ持ち帰って来たんだけどさ。丁度、長男が帰ってて」  その言葉に、ドキリとする。多分、康一のことだろう。赤澤には兄が三人いると聞いているが、年齢的に多分間違いない。 「へ、へえ?」  ドキドキしながら、曖昧に相槌を打つ。 「この前飯食ったときは機嫌良かったのにさ。滅茶苦茶不機嫌でさあ。表情筋死んでんの」 「珍しいね、落ち着いてるのに」  芳明は面識があるらしく、赤澤の言葉にそう返した。手に、じっとりと汗が滲む。不機嫌の理由は、当然俺だろう。 「―――赤澤の兄さんって、どんな感じ?」  つい、そう聞いてしまった。付き合わないと決めたのだから、聞かなければ良いのに。未練と好奇心が勝ってしまう。 「ん?」 「再婚の兄弟だろ。……参考に」 「ああ。んとね、一番上の康一は、クソ真面目。二番目の賢士は鈍感。三男の潤一はヘタレ。ついでに言うとオレは要領よし」 「自己分析が正確だ」  赤澤の自己評価に芳明がそういってクセのある髪を撫でた。目の前でいちゃつかないで欲しい。こっちは失恋したところなのに。  しかし、やはり真面目で通っているようだ。手の早さを差し引けば、康一は誠実だし真面目だと思う。 「兄弟仲は良いよ。まあ、カラオケとかは来ないけどさ」 「じゃあ俺と寛之はカラオケ来てるから仲良しと言うことで」 「適当に流すな。ったく……」  相変わらず、俺への扱いは雑だ。文句を言える立場ではないが。 (真面目―――)  赤澤は、康一が夜の街に出入りしていることを知っているんだろうか。金髪の男と刺青の男は、あまり治安が良い感じはしない。あの街では奇抜な風貌の者も多いが、普段の彼からは結び付かない交遊関係だ。 (いや、詮索するのは辞めよう)  もう、逢うことはない。触れることもない。  それならば、知らない方が良いのだ。  溜め息を吐き出した俺に、赤澤と芳明は目を見合わせた。

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