30 / 90

三十話 逃がさない

 康一の手が、下腹部に伸びた。布越しに撫でられ、ビクッと身体が跳ねる。やわやわと握られ、愛撫されるごとに、硬く硬度を増していく。 「う、あ……」  身動ぎしても、腕はほどけない。額を木に押し付け、首を振る。康一の指は的確に、俺の良いところを刺激する。 「寛之さん……」  耳にかかる吐息が熱い。このまま、どこまでされるのか、不安で仕方がない。乳首と前を弄られ、ガクガクと膝が嗤った。 「や、嫌だ、止めましょうっ? こんなの……」 「僕のものになってくれるんですか?」 「っ、そ、そんっ……、ぅあっ! 考え、られなっ……」  手が下着に入り込んで、直接握られる。先走りで濡れた性器を、ぐちゅぐちゅと扱かれる。他人の手の気持ちよさに、思考があやふやになる。 「ここが嫌なら―――コテージに戻っても良いですよ?」 「っ…」  そちらの方が、マシだろうか。一瞬そう考えた俺をからかうように、康一が耳元で笑う。 「リビングで、犯してあげましょうか」 「っっ!」  反射的に首を振る。リビングなんて、赤澤たちも兄弟もいるのに。 「酷いこと言ってるのに―――興奮するんですね……」 「っ! 違っ……」  カァと、顔が熱くなる。否定しようにも、下半身は正直だ。鈍い反応を見せていた性器は、硬く反り立って腹に付きそうなほど勃起している。  唇を噛んで、恥ずかしさに顔を背ける。一瞬、想像してしまったなんて、言い訳にもならない。  康一の手が性器から離れた。快楽を得られなくなって、不満が口から出そうになる。だが、直ぐに康一がしようとしていることに気がついて、目を見開いて康一を振り返った。  指が、アナルに這う。精液の滑りで、指先がぬぷっと押し込まれた。 「っ、ひっ」 「……もしかして、あれから誰にも触らせてない―――?」 「あっ、当たり前でしょっ! 俺は遊びは無理だって―――」  奥まで指を挿入され、息が詰まった。一度経験があるとは言え、挿入したのは康一に抱かれたときだけだ。硬く閉じた蕾をこじ開けるように、康一はぐちゅぐちゅと指を動かす。 「貴方の可愛い姿を僕しか知らないのは、愉悦ですね……」 「っは、あっ……、お、願いっ……。こんな場所……」  膝まで下着とズボンを下ろされた足に、外気が触れる。落ちつかないし、いつばれるかドキドキして怖い。 「駄目です。可愛くお願いされても、譲ってあげません」  フェアじゃないと言いたいのだろう。俺ばかり要求していたのは事実だ。けど、俺だってこんなのは困る。 「っ、康一、さんが、赤澤のお兄さんじゃなければっ……、何も、考えませんっ……っ、はっ……」  指が増える。中が暴かれる。 「そんなの、理由にならない……」 「俺にはっ……! なるんです! 罪悪感で、死にそうで……」 「じゃあ!」  康一がグイと、首を引き寄せる。切実な表情に、絆されそうになってしまう。ぐらぐらと、気持ちが揺れる。  拒絶した時も、自分の保身で康一を傷つけていると、解っているのに。 「じゃあ、兄弟じゃなければ良いんですか……?」 「―――は」 「赤澤の姓を捨てて、誠一の兄を止めれば良いんですか?」 「っ……! 違っ……」 「寛之さんの選択肢は、狡いですよ……」  噛みつくようにキスをされ、それ以上の言葉を封じられる。 「んっ、ふ……」  そんなつもりじゃないと言いたいのに、言わせて貰えない。キスをされたまま、ぐちゅぐちゅと穴を掻き回される。  やがて、指が引き抜かれ、代わりに片足を抱えられた。穴に、性器が押し当てられる。 「―――っあ、こうっ……」  言葉は、康一に呑み込まれた。狭い穴を押し分けて、肉棒がずぷっと入り込む。腸壁を擦りながらゆっくり挿入される感触に、背筋がぞくぞくと粟立つ。 「寛……さん…」  掠れた声が、名前を呼ぶ。  乱暴に、身体を揺さぶられる。ずぷずぷと、卑猥な音が接合部から漏れ出る。  嫌なはずなのに、こんな場所で抱かれることも、康一に触れられるのも、本当は困るはずなのに。  康一に抱かれているという事実が、言い様のない喜びを胸に満たす。  あの日以来の行為に、愛撫に、身体がうち震えるほど喜びが胸を占める。 (ああ、―――俺、康一さんが……)  好きなのに。  好きな人を、困らせている。愛してくれようとしているのに。俺が良いと言ってくれているのに。 「康一、さ……あっ、ん……」  キスで塞がれた唇の端から、甘い声が漏れる。康一は激しく腰を打ち付け、じゅぷじゅぷと挿入を繰り返した。  引き抜かれ、また奥まで貫かれる。抱いているのだと解らせるように、自分の存在を植え付けるように、挿入を繰り返す康一は、しつこかった。 「っ、はぁ……、寛之さん……っ……」 「んっ、ふっ……ぅん、う……」  荒々しく呼吸を吐き出し、何度も何度も揺さぶられる。アルコールのせいで、頭がぼぅっとする。 「寛之さん、寛之さんっ……!」 「あっ、あ―――、あ……!」  ビクビクと身体を跳ねらせて、康一は穴の奥へ精液を吐き出した。熱いものが中に放たれる感触に、ビクッと震えながら俺も同時に達する。  気だるさが一気に襲いかかって、木に体重を預けてぐったりと力を抜く。康一の腕が、倒れそうな俺を引き起こした。  息も絶え絶えなのに、康一は俺の顎を掴むと、また強引に唇を塞いだ。

ともだちにシェアしよう!