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三十話 逃がさない
康一の手が、下腹部に伸びた。布越しに撫でられ、ビクッと身体が跳ねる。やわやわと握られ、愛撫されるごとに、硬く硬度を増していく。
「う、あ……」
身動ぎしても、腕はほどけない。額を木に押し付け、首を振る。康一の指は的確に、俺の良いところを刺激する。
「寛之さん……」
耳にかかる吐息が熱い。このまま、どこまでされるのか、不安で仕方がない。乳首と前を弄られ、ガクガクと膝が嗤った。
「や、嫌だ、止めましょうっ? こんなの……」
「僕のものになってくれるんですか?」
「っ、そ、そんっ……、ぅあっ! 考え、られなっ……」
手が下着に入り込んで、直接握られる。先走りで濡れた性器を、ぐちゅぐちゅと扱かれる。他人の手の気持ちよさに、思考があやふやになる。
「ここが嫌なら―――コテージに戻っても良いですよ?」
「っ…」
そちらの方が、マシだろうか。一瞬そう考えた俺をからかうように、康一が耳元で笑う。
「リビングで、犯してあげましょうか」
「っっ!」
反射的に首を振る。リビングなんて、赤澤たちも兄弟もいるのに。
「酷いこと言ってるのに―――興奮するんですね……」
「っ! 違っ……」
カァと、顔が熱くなる。否定しようにも、下半身は正直だ。鈍い反応を見せていた性器は、硬く反り立って腹に付きそうなほど勃起している。
唇を噛んで、恥ずかしさに顔を背ける。一瞬、想像してしまったなんて、言い訳にもならない。
康一の手が性器から離れた。快楽を得られなくなって、不満が口から出そうになる。だが、直ぐに康一がしようとしていることに気がついて、目を見開いて康一を振り返った。
指が、アナルに這う。精液の滑りで、指先がぬぷっと押し込まれた。
「っ、ひっ」
「……もしかして、あれから誰にも触らせてない―――?」
「あっ、当たり前でしょっ! 俺は遊びは無理だって―――」
奥まで指を挿入され、息が詰まった。一度経験があるとは言え、挿入したのは康一に抱かれたときだけだ。硬く閉じた蕾をこじ開けるように、康一はぐちゅぐちゅと指を動かす。
「貴方の可愛い姿を僕しか知らないのは、愉悦ですね……」
「っは、あっ……、お、願いっ……。こんな場所……」
膝まで下着とズボンを下ろされた足に、外気が触れる。落ちつかないし、いつばれるかドキドキして怖い。
「駄目です。可愛くお願いされても、譲ってあげません」
フェアじゃないと言いたいのだろう。俺ばかり要求していたのは事実だ。けど、俺だってこんなのは困る。
「っ、康一、さんが、赤澤のお兄さんじゃなければっ……、何も、考えませんっ……っ、はっ……」
指が増える。中が暴かれる。
「そんなの、理由にならない……」
「俺にはっ……! なるんです! 罪悪感で、死にそうで……」
「じゃあ!」
康一がグイと、首を引き寄せる。切実な表情に、絆されそうになってしまう。ぐらぐらと、気持ちが揺れる。
拒絶した時も、自分の保身で康一を傷つけていると、解っているのに。
「じゃあ、兄弟じゃなければ良いんですか……?」
「―――は」
「赤澤の姓を捨てて、誠一の兄を止めれば良いんですか?」
「っ……! 違っ……」
「寛之さんの選択肢は、狡いですよ……」
噛みつくようにキスをされ、それ以上の言葉を封じられる。
「んっ、ふ……」
そんなつもりじゃないと言いたいのに、言わせて貰えない。キスをされたまま、ぐちゅぐちゅと穴を掻き回される。
やがて、指が引き抜かれ、代わりに片足を抱えられた。穴に、性器が押し当てられる。
「―――っあ、こうっ……」
言葉は、康一に呑み込まれた。狭い穴を押し分けて、肉棒がずぷっと入り込む。腸壁を擦りながらゆっくり挿入される感触に、背筋がぞくぞくと粟立つ。
「寛……さん…」
掠れた声が、名前を呼ぶ。
乱暴に、身体を揺さぶられる。ずぷずぷと、卑猥な音が接合部から漏れ出る。
嫌なはずなのに、こんな場所で抱かれることも、康一に触れられるのも、本当は困るはずなのに。
康一に抱かれているという事実が、言い様のない喜びを胸に満たす。
あの日以来の行為に、愛撫に、身体がうち震えるほど喜びが胸を占める。
(ああ、―――俺、康一さんが……)
好きなのに。
好きな人を、困らせている。愛してくれようとしているのに。俺が良いと言ってくれているのに。
「康一、さ……あっ、ん……」
キスで塞がれた唇の端から、甘い声が漏れる。康一は激しく腰を打ち付け、じゅぷじゅぷと挿入を繰り返した。
引き抜かれ、また奥まで貫かれる。抱いているのだと解らせるように、自分の存在を植え付けるように、挿入を繰り返す康一は、しつこかった。
「っ、はぁ……、寛之さん……っ……」
「んっ、ふっ……ぅん、う……」
荒々しく呼吸を吐き出し、何度も何度も揺さぶられる。アルコールのせいで、頭がぼぅっとする。
「寛之さん、寛之さんっ……!」
「あっ、あ―――、あ……!」
ビクビクと身体を跳ねらせて、康一は穴の奥へ精液を吐き出した。熱いものが中に放たれる感触に、ビクッと震えながら俺も同時に達する。
気だるさが一気に襲いかかって、木に体重を預けてぐったりと力を抜く。康一の腕が、倒れそうな俺を引き起こした。
息も絶え絶えなのに、康一は俺の顎を掴むと、また強引に唇を塞いだ。
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