14 / 23

第14話

 僕が市の相談所に提出するためにまとめたメモを優也は眺める。 「今の先生には何年ぐらいかかってるの?」 「初めて発作を起こしてから半年ぐらい経ってからだから、高校二年の半ばぐらいで……一年半ぐらいかな」  優也はメモを取る。 「先生ときちんと話をしなくなってどれぐらい?」 「一年以上。最初の半年も、母さんがペラペラ喋って、先生がうんざりした様子で、僕とはほとんど喋ってなかった」  優也はまたメモを取る。 「これはメモを作るのだけで長くなりそうだ。薬の事になるともっと時間がかかりそうだし。徹底的にメモを作らないといけないね」  昼休みはそれで優也と別れた。  彼はアラビア語の第三外国語の授業があるから。  僕は覚えやすい言語を選んだため、優也と別の授業になった。 「よお、西田。優也を独占して得意面か?」  町田が僕に絡んでくる。 「何?」  山本先生にグランド百周させられて、相当機嫌が悪いらしい。  また、嫌がらせをされるに違いない。 「優也がおまえなんか選んだ理由、知りたくないか?」 「僕がどうしようもない奴だから、可哀想になってだろ。真面目だから」 「おまえんち、学年一の金持ちだって聞いた。もしかすると、学校一の金持ちかもしれないって。だから、授業中に居眠りばっかりしてても、下手に落第にもできないって講師が言ってた」 「……っ⁉」  血の気が引くのを感じた。 「金持ちはいいよなー。やる気なくても、単位もらえて、オヤジの会社継げて、可愛い子を恋人にできて。本人はなーんにも努力しなくても、何でも手に入るんだよな。優也は頭が良いから、認めたくないが、金コネ持ってるおまえに将来性を感じたのかもなー」 「大塚がそんな理由で相手を選ぶはずないよ! 僕の事を好きなのは勘違いかもしれないけど、具合が悪くて可哀想だから、同情したんだよ! 町田は大塚の事、好きみたいなのに、そんな人格の奴に設定して楽しい?」 「おまえが、優也を堕落させたんだ! 優也は安い服を着てるから、周りに見下されないように、一生懸命頑張ってきたのに、高い服着て授業中に寝てるだけで無事卒業できそうなおまえ見てたら、感覚が狂ったんだろ」 「君の考え、理解できない! 君は優也の事、天使みたいに思ってるんだと思ってたよ!」  僕は逃げようと次の教室に向かうが、町田に腕を掴まれた。 「おまえが優也の心を汚した。優也にこれ以上近づくな」  僕は町田を睨み返したが、その日熱が出て、早退した。 「春樹さん。大塚さんから、電話です」  翌日、家政婦の田中さんが電話の子機を持ってくる。  大学はその日、休んでしまっていた。 「具合が悪いから出られないって言って」  僕がずっとスマホの電源を切っているからだ。 『金コネ持ってるおまえに将来性を感じたのかもなー』  大塚が優しくしてくれたのが、お金目当てだったなんて……。  しばらくして、田中さんが部屋をノックした。 「春樹さん。大塚さんがお見えです」 「通さないで」 「来ちゃった!」  なんと、大塚は勝手に僕の家に上がり込んでいた。 「勝手に来ないでよ!」 「君、どうしたの? 今日休んじゃったよね? ノートを見せてあげようと思って」 「竹内に見せてもらうよ」  僕は笑顔でノートを差し出した大塚の手を無視した。 「春樹の家、大きいんだね。しかも一等地。知らなかった」 「知ってたんでしょ⁉」  声がとげとげしくなる。 「え? 知らなかったよ?」 「町田から聞いたんだから!」 「春樹、どうしたの? 町田から何を聞いたの?」 「大塚はお金目当てで僕に近づいたって」 「お金……? ウソ、そんなの知らない。良い服を着てるなぐらいは思ってたけど」  大塚は本当に驚いているように見える。 「なら、どうして僕に近づいたの? 他にもっと条件が良い奴はいたよね?」 「そうかな……? 同級生に春樹より可愛い子いなかったし、上級生にもいないんじゃないかな……? 子どもの頃から王子様が好きだったから、春樹が王子様っぽいなとは思ってたけど、こんな大きな家に住んでるって知らなかった」 「可愛い子なんていくらでもいるでしょ!」 「いないよ。石田が言ってたもん。同級生で一番かわいいとオリエンテーションの時に思ったのは西田だって」 「おまえは可愛くないって、父さんは言ってたよ」 「……それ、性格じゃないかな?」  それも、ひどくない……? 「僕はね、むしろこんな大きな家に住んでて、春樹を手に入れるのが大変なんだと実感したよ。王子様オーラだけで、お金なんてなかったらよかったのに」 「そういう風に思う人、いる?」 「狭い家でも、春樹と二人なら幸せだよ♡」  大塚はスマホを取り出した。  電話をかける。 「町田。随分ひどいウソを春樹に吹き込んでくれたみたいだね! お金で品性は買えるのかい? 卑怯な君がいくら金を積んだって買えないだろうね!」 『ゆ、優也⁉ 待ってくれ……』  大塚は一方的に電話して言いたい事を言って、一方的に電話を切ってしまった。  ぶりっ子していたのが一変。声、すごく怖かった……。  これで、二人の友情は終わり……? 「さ、春樹、邪魔な奴と縁が切れたよ♡ 君は何も心配しなくていいんだよ♡ 僕は、君と釣り合うようにこれから、いろいろと努力しないといけないみたいだけどね……」 「本当? 部活はどうするの?」 「僕、春樹がいれば、部活なんて一人でも平気だし、辞めてもいいよ。それよりも、春樹に釣り合うように、別のエリート校に受験しなおそうか考えてたところだよ。それ以外に何か必要な事はあるかな?」 「本当に僕の事好きなの? 部屋で二人っきりなのに、何もない」  優也は僕の手を掴んで僕の目をのぞき込んできた。 「夜景がキレイなホテルなんてウソだよ。君の発作が落ち着くまではやめておこうって思ってたんだ。今も、君の部屋から甘い匂いがして、そんな気分になるけど、最中に、君が発作を起こしてもしもの事があったら、君のカワイイ寝顔を二度と見れなくなるんだよ」 「寝顔……」 「何かして欲しい事、他にある?」 「ぎゅって抱きしめてほしい」 「わかった♡」  大塚の腕がぎゅっと僕を抱きしめてくる。 「これからは僕の事、優也って呼んでね。ぎゅってして欲しかったら」  耳元で囁いてきた優也に、僕はうなずいた。

ともだちにシェアしよう!