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第22話 (優也視点)

 S駅に行き、春樹を探していると大声で騒いでいる男がいた。  短髪に、クリーニングに出したばかりかと思うようなスーツ姿のこざっぱりとしたリーマンだが、口にする言葉が清潔感が欠片もない。 「君、どこから出てきたの? そんなに大きな荷物を持って、家出でしょ? お金かかるよー。十万でどう?」 「いえ。恋人と会う約束を……」  断ろうとしているのは聞き覚えがある声だ。 「出会い系で顔写真を載せたら、食いついてきた男いたんだ? 相手の写真見た? どうせ、ろくな奴じゃねーよ。一緒に住んでくれる人、探してるんだろ?」  ある程度言い当ててるのだが、春樹をこんな家出少年食いまくってるような男に奪われては困る。 「春! こっち!」  あえて、名前全部は言わない。覚えられてはたまらない。  僕は飛び跳ねて、手を振る。 「あ、来てくれたんだ!」 「き、君も……」  僕の腕を掴もうとするリーマンを僕は突き飛ばして、春樹の腕を引っ張る。 「さ、行こうか」 「うん」  家に帰ると、案の定、お母さんはイヤな顔をした。  春樹に君は友達という設定で、しばらく泊める事になったと説得すると言ってある。 「お母さん、春樹をしばらく泊めてよ。しばらくでいいんだ」 「この子、あんたの恋人でしょ?」  いきなり図星を突かれて苦しい。 「優也。僕、やっぱり……」 「お母さん、春樹を泊めてくれないなら、僕にも考えがあるから!」 「何?」  お母さんの顔にミミズのようなシワができる。 「僕、家を出て、春樹とユーチューバーとしてデビューするんだ!」  お母さんは意味が分からないらしく、目を白黒しながら妹の夕奈に質問する。 「ユーなんとかって何?」 「的屋さんのくじを買い占めて、全部開けて当たりが入ってるかとかネットに公開するやつでしょ?」  さすが我が妹!  なかなか良い感じの事を答えてくれた。  お母さんは真っ青になる。 「それは止めなさい。本当にしばらくなのね?」 「うん♡」  学校の皆には内緒にしてるけど、実はおじさんなのに痛いぶりっ子アイドルやってるお父さんの声音と仕草を真似をしてみる。  お母さんがアイドルオタクで、お父さんを射止めたのが自慢なのを僕は知ってる! 「すみません。所持金少ないですけど、お世話になるようでしたら全部出します」  春樹の所持金に万札が十枚以上あるのを見て、夕奈の目がハートマークになる。 「預かってる子にいかがわしい事はしないでよ」 「分かった。ありがとう、お母さん♡」  春樹を僕の部屋に案内すると彼は大人しくついてくる。 「ここ、僕の部屋だから。後は居間とトイレは勝手に入っていいよ。浴室は決まった時間しか使えないから」 「ごめんね。迷惑かけて……」  春樹の目が涙ぐむ。 「あんな変な男の餌食になるぐらいなら、こんな事、何でもない! むしろ、ご褒美?」  僕は居間の押し入れから、客用の布団を出してくる。 「これ、春樹の分だから」  僕が普段使っている布団を端っこの方に移動させて、春樹の布団を敷く。 「本当に、ごめんね……」 「じゃあ、そろそろご飯にしようか。君は何か食べた?」 「何も。ノンカフェインの麦茶ある?」  家にあった麦茶って、ノンカフェインだっけと考えながらコンビニで今から調達できるか考える。 「麦茶って……今夜の晩御飯はミートスパゲティとハンバーグなんだけど……」 「麦茶があったらいいよ」 「何か食べなよ」 「冷やし中華はある?」 「あるよ」 「砂糖とアルコールは使わないでね」 「分かった」  後で聞くと、春樹はケトン食という食事療法を行っていて、なるべくその通りに家政婦さんが食事を作っていたらしい。  アルコールは完全に体に良くないらしいが、脂肪をへらしたりするのも発作に効果があると言われていて、実行していた。  僕は正直、冷やし中華はあまり好きではないけど、春樹が食べるものと聞いて、多めに買い置きしておこうと思った。

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