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プロローグ

    プロローグ  今を去ること二十一年。四ノ宮羽月(しのみやはづき)が生後半年で公園デビューした日に、こんな出来事があった。通りすがりの占星術師が突然ベビーカーの前に立ちはだかり、天宮図を広げてみせたのだ。  占星術師曰く、羽月が産声をあげた瞬間に、なんとか星雲でなんとかという星が、ああしてこうした結果、  ──この赤ちゃんは千人斬りを達成する宿命を背負って生まれた。つまりペニス狩りに意欲を燃やす天性のビッチ……。  それは予言という次元を通り越して、もはや呪いだ。紡ぎ車の錘が指に刺さって百年のあいだ眠りつづける、といった類いの。  のちに羽月は両親を気の毒に思った。ひとり息子がいずれエロ魔人として名を轟かせるかもしれないなんて、悪夢に違いない。  ちなみに予言云々に関しては、両親の会話を漏れ聞いて知った。羽月が間違っても男好きに成長することがないように、催眠術をかけるなどして、変な才能が開花するのを防いでおこうか──と。  つまり一種の洗脳策だ。  羽月自身は、千人斬りという言葉の意味を正しく理解した時点で悟りを開いた。潔く運命を受け入れよう。貪り放題にペニスを貪り、ビッチ街道をまっしぐらに突き進むのもひとつの生き方だ。  実際、よちよち歩きのころから男子にモテまくりで、羽月がシーソーで遊びはじめようものなら、反対側の板に乗る順番を巡って血の雨が降るのが常だった。  九十九・九パーセントの男を虜にするスーパーフェロモンをまき散らしているらしい、と自覚したのは小学校の高学年のころだ。  黒目がちの愛くるしい顔立ちも相まって、物陰につれ込まれてイタズラされそうになるのは日常茶飯事。幸いなことに毎回、助けが入ったものの、ミイラ取りがミイラになる方式で狼に変身した例は枚挙に(いとま)がない。おかげで逃げ足が速くなり、運動会のリレー競技では毎年アンカーを務めるに至った。  時は流れて中学二年生の夏。サッカー部の主将にお手合わせを願い、「美味しくいただかれた」。初貫通にもかかわらず、いわゆるメスイキを体得してのけたあたり、やはり素質に恵まれていた。  かくしてビッチ誕生と相成って以来、給食を残すことがあっても、ペニスのほうは毎日欠かさず食べる勢いで快進撃をつづけた。  穴兄弟を量産しても恨みを買うことがなかったのは、人徳と言えるのか。  男子校に進学して以降の三年間は、まさにウハウハの入れ食い状態のうちにすぎていった。卒業式の日にはかつてぱくついたペニス……もとい、OBおよび同級生ならびに下級生が校門の両脇にずらりと並び、ビッチ万歳三唱で羽月の門出を祝った。   さて、大学に合格したのを機に上京して、ほのかにイカ臭い青春を謳歌すること二年と数ヶ月。人生のターニングポイントといえる出会いがあった。

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